京の腰抜けうどん
京の腰抜けうどん
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 京都グルメといえば、人気のうどん店で一時間も行列に並んだり、予約の取れない人気割烹に行くために何カ月も前から電話をかけまくり、さらには行きたい日取りで旅行するのではなく、予約日に合わせて旅行したりと、苦労しなければおいしいものにありつけないかのような状況が当たり前になりつつあるように思える。

 しかし、真に「できる人」や「通」な人は、そんなことはしない。では、「できる人」は、どのような店選びをするのだろうか。生粋の京都人であり、歯科医師、かつ作家で、『できる人の「京都」術』の著書でもある柏井壽氏にたずねた。

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「行列必至」を、飲食店に対する最大の賛辞ととらえる人が多いように思います。行列が行列を呼ぶようなところがあるのも事実です。けれども、たかが、といっては失礼かもしれませんが、一杯のうどんを食べるためだけに、一時間以上も店の外で並ぶのは、時間の無駄だと思うのです。

 京都での一時間は貴重です。せっかく京都にきたのですから、観るべきもの、行くべきところは山ほどあって、無駄に一時間もつぶすくらいなら、そちらを優先すべきでしょう。

「できる人」は決して長い列の後ろにつきません。では、「できる人」は、どのような店選びをするのでしょうか。

 出汁(だし)文化が隅々にまで行き届いている京都では、街場の食堂、うどん屋さんに入れば、たいてい美味しいうどんにありつけます。京都のうどんは、同じような味のうどんに見えて、それぞれが微妙に異なります。

 京都人は、たいてい<マイうどん>とも呼ぶべき店を持っていて、誰がなんと言おうがその店に通いつめるようなところがあります。かく言う僕も贔屓のうどん屋を何軒か持っていて、それを順に回っています。

 そんな私の<マイうどん>をひとつご紹介しましょう。京都駅八条口にほど近い「殿田」です。「殿田」の<たぬきうどん>は、コシのないうどん、油揚げ、そしてとろみの付いた<だし>が三位一体となり、口いっぱいに幸せを広げます。

「京の腰抜けうどん」。そう呼ばれるほど、昔から京都のうどんにはコシがありません。それにはちょっとした理由があって、コシが強すぎると、うどんつゆが麺に染みこまないからです。

 また、多くの京都人はうどんつゆを<だし>と呼びます。

「ええ<だし>やなぁ―」

 最後の一滴まで飲みほしての言葉。「殿田」のたぬきうどんは、九条ネギとおろし生姜の風味も相まって、これぞ京都のうどん、だと教えてくれます。しかも500円(税抜)。ワンコインで味わえる京都のほんまもん、です。

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