「中治り」後は、意識がない状態がさらに長くなり、のど元や肺の辺りから「ゴロゴロ」「コロコロ」といった音が聞こえてくることもあります。これは、いよいよ死期が近付いた時に見られる「死前喘鳴(しぜんぜんめい)」という呼吸です。
この呼吸が数日続いた後に現れるのが「下顎呼吸」で、下あごを大きく上げ下げしてあえぐような呼吸を繰り返します。通常は使わない首やあごの筋肉を使って行う呼吸で、脳に十分な酸素が行き届いていないことが原因です。また、血液中の酸素も不足するので手足の先や唇が紫色に変化し冷たくなります(チアノーゼ)。下顎呼吸は死が直前に迫ったことを示すサインなので、これが見られたらすぐに医師に伝えましょう。
■看取りで行われるケアや看護
看取りケアの目的は心身の苦痛を取り除くことで、治療ではありません。
身体的なケアとしては、ベッド上での寝返りや体位変換がよく行われます。これは、褥瘡(床ずれ)の痛みの緩和や防止のための処置で、血の巡りを良くしてチアノーゼを防ぐために、手足のマッサージも行われます。
体を清潔に保つことも重要なケアです。体をきれいにふく「清拭」の他に、口の中をきれいにする「口腔ケア」、整髪、排せつ介助、可能な場合は入浴も行います。さらに、利用者の状況に応じて、食べられる範囲での食事介助も行います。
精神的なケアとしては、不安を取り除き寂しい気持ちにさせないために、積極的な声かけを行います。その際は、手を握る、体に手を添える・さする、そばに座る、身を寄せるなどのスキンシップも同時に行います。
また、その人らしさを最後まで持ってもらうことも、大切な要素です。思い出の品や昔の写真を傍らに置く、好きだった音楽をかけるなどして、元気だったころの姿に思いをはせ、それまでの人生をポジティブにとらえられるような環境づくりをすることは、精神的苦痛を和らげるうえで大きな効果があります。
西岡修(にしおか・おさむ)社会福祉法人白十字会白十字ホーム・ホーム長。1978年大正大学卒業後、白十字ホームに生活指導員(現生活相談員)として就職。1995年白十字ホーム副ホーム長。2001年から現職。東京都高齢者福祉施設協議会会長。大正大学非常勤講師。NPO法人YWCAヒューマンサービスサポートセンター理事