「なんかそういう壁みたいなものを自分が求めているから、来るんでしょうね。もちろん、好きじゃないですよ。だけど、自分で好きだ好きだと思い込むんです。自分のストーリーがあまりにもすべてがうまくいくのは、気持ちいいかもしれないけど面白くないじゃないですか。ケガをしたり、ミスをして批判されて、ブーイングされて、メディアでぐちゃぐちゃに叩たたかれたりして、そこから這い上がっていくストーリーのほうが僕は好きだし、それを見せるのも好きなんですよ。頑張っている子どもたちがそれを見たときに、どれだけ勇気をもらえるか、ということも意識しているんでしょうね。そっちのほうが格好いいと思っている自分がいるんです」

 小学生のときから誰よりも練習をし、誰よりも走り込んできた愛媛時代の長友少年自身の姿も思い浮かぶのだろう。

「僕自身、子どものときに、もっとこうしておけばよかった、いまの考えを子どものときからもっていればよかったと思うこともあるんです。長友っていうやつがいて、あの選手はどんなときも這い上がってくるんだよね、どんなときも諦めずに走っていたんだよね、という印象を少しでも残せたら、それで十分なんです。苦しんでいる子どもたちにエネルギーを与えられるような存在になれれば、という思いです」

 長友の目は、常に未来に向いている。全力で戦った今日の先にある明日。サッカー選手のあるべき姿についてもこう言う。

「サッカーならサッカー一本で突っ走るのは素晴らしいことだと思う。でも、セカンドキャリアに進まなければならないときは絶対に来るんです。そのとき自分の横を見たら何もない、というのはすごい寂しいなと思う。頑張ってきた自分の強みを生かしながら、自分でできるビジネスを、サッカーをやっている間に見つけてほしいと思う。人生、サッカー終わったあとのほうが長いんですから」

 昨春、健康をテーマにビジネス展開する「クオーレ」を興したのは、長友が出した「セカンドキャリア」に対するひとつの答えだ。

「会社の柱としては運動、食事、精神を掲げた。サッカー選手としてやってきて、食事を大切にすることでいかに健康で充実した毎日が送れるかということを実感したんです。それを伝えていくのは、自分の使命だと信じていますし、その主旨に共感していただける人々と手を組んでいきたい。そして、さらなる大きな次のステージに進んでいければと思っています」

(文・一志治夫)

※『アエラスタイルマガジン 34号』より抜粋

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