東芝が主力の半導体事業を分社化し、その新会社の株式の過半数を売却する方針を打ち出すなど、苦境に立たされている。台湾の鴻海精密工業の傘下に入ったシャープに続き、海外企業による東芝本体の買収も起こり得るのだろうか。『日本の電機産業 失敗の教訓』(朝日新聞出版)の著者で、電機業界の再編を後押ししてきた産業創成アドバイザリー代表取締役の佐藤文昭氏に、日本の電機メーカー劣勢の真因を分析してもらった。
* * *
なぜ、日本の電機産業は、1990年代後半以降に競争力を失い、収益をあげることができなくなってしまったのだろうか。
産業構造の問題は、以下の3つに整理できる。
(1)リソースの非効率な分散
日本の大手電機メーカーは、コングロマリット(複合企業)とも呼ばれる総合メーカーであり、半導体、ディスプレイ、テレビ、携帯電話、パソコン、重電(工場などで使われる電気設備)、白物家電など、大半の電機製品を手掛けていたため、日本国内のヒト、カネ、技術などのリソースが非効率に分散してしまっている。
そのため、各社のリソースが不十分で、設備投資、研究開発投資、販売投資が中途半端となり、競争力をなくし、国内市場だけでシェアを分け合うガラパゴス化が進んでしまった。
(2)自ら招いた技術流出によるアジア勢のキャッチアップ
電機製品の中でも、半導体、ディスプレイ、テレビ・DVDなどのデジタルAV、パソコンなどのデジタル情報機器については、デジタル化により品質格差が小さくなったところに、グローバル金融化により資金を調達しやすくなったという状況が重なった。
そのような状況が進む中で、多数の日本企業が自ら技術を流出させてしまい、アジア勢のキャッチアップをむしろ加速させてしまったのだ。
(3)起業家精神を失ったサラリーマン集団(大企業病)
世界の同業他社は専業化して、巨大化する中で、10社もの総合電機メーカー(NEC、富士通、日立製作所、東芝、三菱電機、ソニー、松下電器産業[現パナソニック]、シャープ、パイオニア、三洋電機)が存在した日本の電機業界では事業売却や統合といった機運がなかなか高まらなかった。そのような状況下で、日本の各電機メーカーの生産規模は小さいままで、負け続け、さらに業績が悪くなるという悪循環に陥った。
それは、経営者も従業員もリスクを取らない起業家精神を欠いたサラリーマンになってしまっていることが原因だった。
東芝の場合もそうだが、もっとも克服が難しいのが(3)の大企業病だ。(1)と(2)については、業界再編を仕掛け、複数の大企業から特定の事業を切り出し統合した新会社をつくることで、対処可能だ。しかし、いくら新会社という器をつくっても、その中で働く人たちのマインドが変わらなければ、競争力を保持することは不可能なのだ。
まん延する大企業病に打ち勝ち、日本経済を再活性化していくためには、海外企業との提携や、外国人経営者の招へいなども積極的な選択肢として取り入れていく必要があると考える。
最近、鴻海精密工業の傘下に入ったシャープが3年ぶりに経常黒字を出せそうだというニュースが報道されたが、日本の電機業界は今、海外勢との合従連衡も視野に入れた、より積極的な業界再編を仕掛けていく時期に差し掛かっているといえそうだ。