これまで注目されてこなかった「高齢者のがん」が、ようやく公の場で議題に上がったのが16年9月の厚生労働省の「がん対策推進協議会」。初めて高齢者をテーマに議論された。どんな課題があるのか、週刊朝日ムック「手術数でわかるいい病院2017」で取材した。
「がん対策推進協議会」の参考人として意見を述べたのが、杏林大学医学部内科学腫瘍内科准教授の長島文夫医師だ。「高齢者のがんを考える会」のメンバーでもある。
長島医師は同協議会において、高齢者のがん治療では、延命の視点だけでなく、寝たきりにならないか、認知症にならないか、副作用などで生活の質(QOL)は下がらないか、といった視点を持つことが重要だと主張。エビデンス(科学的根拠)を集めて、個人差の大きい高齢者にどんなリスクがあるか事前にチェックする仕組みを作っていくことを提案した。
長島医師は本誌の取材にこう話す。
「近年の高齢者は昔に比べ、どんどん元気になっています。以前は70歳の場合、副作用の強い抗がん剤は使いませんでしたが、現在は投与が可能な場合も多いです。学会などで報告される症例は、一部の元気な高齢者を対象としたものばかりで、脆弱な高齢者についてはエビデンスがありません。現場の経験などによるさじ加減で対応しているのが現状です」
「スーパー高齢者」「エリート高齢者」と呼ばれる元気な高齢者だけを対象にしてデータを集めていては、脆弱な高齢者の治療の参考とならない。多様性の大きい高齢者に対し事前チェックをおこなうことにより、それぞれに適した治療法を提案できると期待されている。長島医師らは、その目的で活用できる評価方法の開発を、AMED(日本医療研究開発機構)の研究班として進めているという。
こうしたがん治療全般の指摘がされ始めた中、気になるのは高齢者の手術のエビデンスだ。
「外科医は、内科から患者を送られてくる立場なので、多くの外科医は『すでに内科で選び抜かれた患者だから手術しても大丈夫だろう』という認識があります。もちろん外科医も、手術が適切かどうか検討しますが、やはりそこにエビデンスはなく、個人の判断に委ねられているのが現状です」