がん治療を語るうえで、高齢者を避けては通れない状況だ。
がんの3大治療は、手術、薬物療法、放射線治療で、固形がんの多くは、切除手術が根治的な治療となっている。しかし、手術は、からだへの負担は大きく、全身状態がよくなければできない。まして高齢者となると、がんのほかにも持病があったり、手術に耐えられるだけの身体機能がなかったりと、手術が必ずしも最適な治療法と一概には言えない。
手術は成功したけれど、ほかの病気の引き金となり亡くなってしまったケース、寝たきりになってしまったケースもある。その一方で、「高齢だからもう手術はあきらめたほうがいい」と医師に言われたが、セカンドオピニオンで別の医師に意見を求めたら手術ができたケースもあると聞く。
16年の夏、「週刊現代」は「やってはいけない手術」といった見出しの特集を毎週のように組み、「週刊文春」はその反論記事を特集した。
本誌が「高齢者の手術」をテーマに取材を試みる狙いは、増加する高齢のがん患者に対して、適切な医療が提供できているのかをチェックすることだ。しかし、取材を進めていくと、高齢者のがん治療には、適切か以前に、適切かどうかを検討するためのエビデンス(科学的根拠)自体がないことが明らかになった。
冒頭の高山医師への取材内容に迫る前に、まず日本の高齢者のがん治療の全容を見ていきたい。
「実は、抗がん剤などの新薬を承認するための臨床試験は、高齢者を除外しておこなわれていることが多いのです。つまり70歳以下や75歳以下の被験者のデータをもとに、有効性、安全性を確認して保険承認されます。その後、高齢のがん患者に使われることになります」
そう話すのは、福岡大学医学部総合医学研究センター教授の田村和夫医師(腫瘍内科)だ。13年に、高齢者のがん治療に危機感を持った医師を中心に、「高齢者のがんを考える会」を設立した発起人でもある。
一般的に「高齢化にともない増加するがん」と紹介されるので、がんの治療成績は高齢者も対象にしているはずと誰もが思うだろう。しかし、実際は新薬承認後も、高齢者への効果の検証はされていない。臨床現場では限られた情報のなかで医師の経験則によって、高齢者の治療がおこなわれることが多い。