患者さんの糖尿病がコントロール不良なのは、患者さんの意志が弱くて食べすぎで運動不足だからなのではなく、患者さんの職業によって食事の選択肢が少なかったり、運動する時間や経済的余裕がなかったり、受けてきた教育や周りの人の影響でそのようになっているという考え方である。そのため、患者さんの治療をきちんとしようとしたら、医学的知識だけでは不十分となる。

 健康の社会的決定要因まで掘り下げ、そこに介入していくことがこれからの医師には求められる能力である。医師は医学だけ理解していればよいという時代は、もはや過去のものとなりつつある。

■医療経済学を理解し、ムダのない医療行為を

 これからの医師には、医療経済学の知識も求められるように
なってくると思われる。

 今の日本では、病院やクリニックは、医療サービスを提供すればするほど、検査をすればするほど利益が上がるようにできている。

 これは、いわゆる「出来高払い」であり、このシステムの下では、医療サービスは最適な量よりも多く提供されてしまうという問題がある。日本の医師が忙しく感じているのは医師の絶対数が少ないからではなく、提供されている医療サービスの量が多すぎるからであると、私は考えている。

 OECDの13年のデータによると、日本の医師数は人口千人あたり2.3人であり、OECD平均の3.3人と比べれば、確かに少ない。一方、米国の医師数は2.6人と日本と大差ないものの、米国では医師不足は日本ほど問題になっていない。

 OECDの中で最も医師数の多いのはギリシャの6.3人であり、こういった国に引っ張られて高めにOECD平均が算出されている可能性もあるが、いずれにせよOECDの平均値は、目標とすべき「最適値」ではない。

 日本と米国で医師数がほとんど変わらないのに、現場での“医師不足感”が大きく違うのは、提供されるサービスの量が日本のほうが圧倒的に多いからである。外来受診回数や入院日数は、日本が米国より3倍ほど多い。つまり、同じだけの人的資源がありながら、3倍の業務量が発生しているともいえる。

■「出来高払い」が薄利多売に

 なぜ、これほど医療サービスの提供量が多いのか。

 それは、日本が出来高払いを使っており、その単価が安く、薄利多売になっているためである(ちなみに、出来高払いでも単価が高ければ医療サービスの提供量をそれほど多くしなくても病院やクリニックは倒産せずに維持することができるが、そうすると莫大な医療費がかかるようになってしまう)。

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