五輪3連覇を狙う北島康介(日本コカ・コーラ)。シドニー、アテネ、北京と三つの五輪をともに戦ってきた東京スイミングセンターの平井伯昌コーチのもとを離れた3年間とはどんなものだったのか。平井コーチと早大水泳部の同期で、北島選手の担当14年の番記者でもある朝日新聞の堀井正明記者がこうレポートする。
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昨年は3月の東日本大震災の影響で4月の日本選手権が中止。代わりに浜松で開かれた世界選手権代表選考会の直前、北島は「世界記録を狙いたい」と、09年夏に高速水着を着た豪州選手に破られた世界記録奪還を口にした。
ところが、その代表選考会の200メートル決勝でスタートした直後、肉離れを起こしてしまう。「左の太ももの中が『バチン』って。関節が外れたかと思った」という激痛をこらえて、2分9秒26で2位に食い込み世界選手権の代表権を得た。
リハビリを経て急仕上げで臨んだ7月の上海世界選手権は、58秒71で100メートルに優勝したアレクサンドル・ダーレオーエン(ノルウェー)に1秒32差の4位。そこから立て直して200メートルはダニエル・ジェルタ(ハンガリー)に0秒22差の2位。帰国直後のインタビューでは肉離れを言い訳にせず、「来年は100も勝負したい」と雪辱を誓っていた。 その成果が今年4月、4年ぶりの自己ベストだった。5月1日、目標にしていたダーレオーエン急逝の報に「涙がとまらないよ」とツイッターでつぶやいた。夏に向けてさらに練習を積み、北京五輪以来といえる万全の状態で、ロンドンに乗り込んだ。
最終調整を日本で行った北島は7月19日、ロンドンに発つ前日の公開練習で、「この4年間で技術的に進化した部分は?」と問われて、こう答えた。
「100分の1秒しか上がっていないからね。進化とはいえない。奥が深いから」
※週刊朝日 2012年8月10日号