ネパール人が増えた背景のひとつは、留学生の増加だ。少子化に悩む日本の大学や専門学校が、アジア系の若者に広く門戸を開いたのだ。ビザも緩和された。東日本大震災の後、相次いで帰国する中国人や韓国人の学生たちの穴を埋めたのも、ネパールやべトナム、ミャンマーといったアジア系の人々だった。

 そして技能の分野で在留資格を得るコック職のネパール人も急増した。インド料理屋などの下働きからはじめ、お金がたまったら独立して店を開く。すると在留資格のなかの「家族滞在」というルールで、家族や親戚を呼び寄せられるようになる。仕事を求めて遠縁の人が頼ってきたりもする。まるで開拓者のようなコックのもと、いま日本にはネパール人経営のカレー屋が急増している。

 ネパール人は基本的にまじめで、日本人経営者からは重宝される。仕事をすっかり任せられることもよくある。だからこれまでは、アパートの契約でも、アルバイトの面接でも、断られることはあまりなかった。しかし、いまそれが変わりつつある。

「ネパール難民」が増えているのだ。

「大きな地震もあり、政治も不安定。しかしネパールは難民を出すような状態ではありません」(ティラクさん)

 だが実態は、観光や留学の名目で日本にやってきたネパール人が、次々と入国管理局に出頭し、難民申請をしている。受理されても、日本政府はほとんど難民として認定しない。だが「難民申請中」という立場で、日本に滞在し続けることができる。家族滞在や留学では、週28時間までの労働しか許可されていないが、難民申請をすればその制限もなくなる。

「その裏には、両国で活動するネパール人と日本人のブローカーの存在があります」(ティラクさん)

 借金を背負わせてネパール人の若者を日本に送り込み、その労働力をピンハネする業者が暗躍している。この数年の在日ネパール人急増の、大きな理由のひとつだ。

「自称難民」たちは、犯罪をしているわけではない。ただ労働しているだけだ。「しかし、ネパール人のイメージは悪化してしまっている」(ティラクさん)という。ネパール人というだけで難民と連想され、アパートの契約を断られたりするケースが多くなっている。

 制度を悪用する業者、情報に疎く利用されるばかりのネパールの若者、そして制度を放置し半年に一度の簡単なインタビューだけで難民申請期間をあっさり半年延長させてしまう日本政府にも、考えてほしいとティラクさんは言う。

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