■乗りのいいリズムに合わせて運動することが大事

 また、2014年には、右利きの健常若年者25人を対象に「短時間の軽い運動が認知機能に与える影響」を調べた結果が発表されています。

 それによると、10分間の自転車ペダリング運動(最大酸素摂取量30%の低強度の運動)をおこなったグループと、何もせずに安静にしていたグループとでは、前者のほうが、運動後に左脳の前頭前野背外側部と前頭極の活動性が明らかに高まることが判明しました。これは、脳の活動を測定する装置(機能的近赤外分光法)を用いて実証されたものです。その際、認知機能のうち、注意・集中、判断、計画・実行などの機能の状態を検査する「カラー・ワード・ストループテスト」で、前者では運動後に明らかな成績の向上が認められました。

「大脳の前頭葉にある前頭前野背外側部は、同じ前頭前野のもっとも前側にある前頭極と相互に連絡を取り合って機能し、実行機能を担っているのです。この私たちの研究成果は、短時間の軽い運動でも認知機能は高まり、ひいては認知症予防にもなりうるという、科学的裏づけのひとつになるのではと考えています」(同)

 実は、征矢氏は、“脳フィットネス”という新しい概念の提唱者でもあります。ストレスに負けない、元気で前向きな人間でいられるような脳の状態を“脳フィットネス”と定義し、脳フィットネスを高める方法として、だれでも楽しくできる身体運動に着目し研究を続けています。

「運動は、その人に『したい』という欲求があって初めてできるもの。『健康のためにやらなければ』という義務感では、運動がだんだんストレスになって長続きしません。そのため、脳フィットネスでもっとも重視するのが、その人の今の気分なのです。憂うつな気分では運動する気にはなれません。でも、乗りのいいリズムは人間を運動に誘うのに重要な条件だと脳科学でわかってきました。乗りのいいリズムで楽しくからだを動かし快適な気分になる。これこそが脳フィットネスを高める運動ととらえています」(同)

(取材・文/成島香里)

※週刊朝日ムック『すべてがわかる 認知症2016』より

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