一方、ケンブリッジ飛鳥は、隣のレーンを走るガトリンの切れ味鋭いスタートに叩きのめされた。今季の日本選手権で山縣や桐生祥秀を抑えて優勝できた要因には、挑戦するという意識がプラスに働いたことがある。前日の予選ではそれを再現し、3組2着という堂々の走りで準決勝進出を果たした。
しかし、準決勝では「分かっていた」とはいえ、ガトリンのスタートの凄さと、それが発する圧力のようなものを肌で感じ、その瞬間から体中に力が入ってしまった。それを最後まで修正できず、彼の長所である「柔らかな動きでトップスピードを維持する大きな走り」をみせられずに終わった。ガチガチの走りのままでゴールを駆け抜けた結果は10秒17。最下位(一人が棄権)に沈む悔しいものだった。
「準決勝もスタート前までは楽しみました。ウオーミングアップでも良かったから行けるかなと思っていたけど、『ここが勝負だ』という思いも強かったので……。でも予選でも感じた『もっとできそうだ』という手応えを、準決勝でも感じることができましたから」(ケンブリッジ飛鳥)
だが彼にとっては初めての世界との戦いの場だった。そこで叩きのめされることも、これからの成長にとっては必要不可欠である。
満足の表情をみせた山縣と、悔しさで苦笑を浮かべたケンブリッジ飛鳥。ふたりがリオ五輪の準決勝で得た“財産”は大きい。(文・折山淑美)