開発にかかわった同社の社員、吉野ありささんは「ご当地ソフトとして楽しんでもらえればうれしい」とPRする。だが、売れ行きを聞くと、「ツイッターなどのSNSで発信されることは多いですが、食べるのはなかなか勇気がいるみたいです」と苦笑い。今後に期待、というところか。
なぜ姫路には、不思議な食べ物が多いのか。姫路食文化協会副会長の前川裕司さん(61)は「姫路では、『1+1=2+α』になると思ったら受け入れる文化がある」と分析する。
古くから姫路を含む兵庫県南東部、瀬戸内海に面した播磨の地は、海産物やおいしい水といった豊かな食に恵まれ、大和朝廷以来、貴族、寺社の荘園として発展してきた。恵まれた食産業の環境により、しょうゆや塩といった調味料や酒などが特産品として製造されていったのだ。
加えて播磨国は、江戸時代には十数回城主替えが行われた。そのたびに、城主の出身地から名産品が入ってきて、「おいしければ採用」という“ミックス文化”が発展していったという。
「例えば、焼きそばとうどん、2つおいしかったらええやろ、という発想で生まれたのがちゃんぽん焼き。混ぜることに抵抗がなく、これしかない、という発想がない。ベターなら受け入れる、というのが姫路流です」(前川さん)
確かに、ソースを塗ったたこ焼きを、さらに明石焼きのようにだし汁につけて食べるというのは、普通はない発想だ。おいしかったらタブーはなし。また、両方食べたければ混ぜればいい。ベストじゃなくてもベターならいいという、二つの欲求を満たすための最短距離を行っているといえそうだ。
最近、全国的に広まりつつある「姫路おでん」にも、姫路っ子の気質が見られると、姫路おでん普及委員会の会長でもある前川さんは話す。姫路おでんはショウガじょうゆで食べるのが一般的なのだが、姫路っ子にとってそれが「珍しいもの」だという認識はなかったという。その当たり前さゆえか、コンビニエンスストアのおでんコーナーにショウガじょうゆが置いてないと、クレームが相次いだというエピソードもある(現在は、姫路市内のほとんどのコンビニに置かれているそうだ)。
2006年ごろ、「どうやら姫路のおでんは一般的なおでんではないようだ」という認識がようやく広まり、調味料メーカー役員の前川さんら食品業界の関係者らが、「姫路おでん」としてPRに乗り出した。そのかいあってか徐々に存在感を増し、16年7月からは、ハモやタコ、イカなど播磨灘の海の幸が食べられるおでん「海鮮姫路おでん」もJR姫路駅の姫路おでん本舗で売り出されている。
独自路線を突き進み続ける姫路グルメ。姫路を訪れた際には、ぜひお試しあれ。(ライター・南文枝)