2016年5月29日に有楽町・朝日ホール行われた、第20回手塚治虫文化賞(朝日新聞社主催)記念イベントで、漫画家の西原理恵子さんとしりあがり寿さんによる10年後の因縁の対決「画力対決七番勝負 ふたりとも、10年経って絵は上手くなりましたか?」が行われた。実はまさに10年前、第10回手塚治虫文化賞贈呈式の記念イベントとして、「画力対決7番勝負」を行っていた2人。10年ぶりの対決では、画力もさることながら話術もさえ渡り、会場を大いに沸かせた。貴重な画力対決の様子を、ほぼ全文の形で紹介する。司会は小学館の編集者、八巻和弘さんだ。
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八巻和弘(以下、八巻): 10年ぶりです。10年前にいらした方いらっしゃいますか? あ、いらっしゃいますね。すごい。あれ以来全然変わっていませんので。
西原理恵子(以下、西原):絵柄も全く向上してませんし。
しりあがり寿(以下、しりあがり):どっちかというと、下手になってるよね。老化してるから。
八巻:10年前にここで、まさにこの3人でやらせていただいて、僕と西原さんは商売人なので、それをそのまま「人生画力対決」というマンガの連載にしまして、単行本を8冊も出させてもらいました。おかげでマンガ連載がひとつ出来たので、大変ありがたかったです。この10年の間で、しりあがりさんはほとんどアーティスト状態で……。
しりあがり:いやいや、それは。それ、ほめてないよね?
八巻:ほめてますよ(笑)。今度、展覧会やるんですよね?
西原:なんか一個しかない椅子にうまく座ったよね、しりあがりさんは。
八巻:あと、しりあがりさんあれですよ、紫綬褒章。もらってますよね?
しりあがり:一昨年ですかね。
八巻:勲章まで。
しりあがり:でもこんなちっちゃかったんですよ。うずらの卵みたいな(笑)
西原:でもなんでももらっとかないとね。はい。
■まずは受賞作で本人確認?
八巻:それでは最初に、2人の受賞作を一回ここで書いてもらって。しりあがりさんは「弥次喜多 in DEEP」ですよね。
しりあがり:自分のマンガ描くの?
西原:もう覚えてないでしょ?
しりあがり:まあ覚えてないよね。
八巻:じゃあ、ここ(プロジェクター上)で描いて下さい。生描きで。
西原:本人証明で偽物じゃないっていう。
しりあがり:なるほどね。
西原:手塚さんところのご長男じゃないってことを(会場爆笑)
しりあがり:いやこれ、かえって俺怪しまれるんじゃない?(笑)
西原:本人覚えてません、弥次喜多なんて覚えてません!(笑)
しりあがり:描きまーす(描く)。緊張して駄目だ……。
西原:これで数万円稼ぐんだから、一瞬で。ほんと楽な商売ですよ。
しりあがり:できました! やべー緊張した。
八巻:では続いて西原さん。西原さんは「毎日かあさん」ですね。朝日新聞の会場ですけど、毎日かあさん。
西原:ああ、かあさんで受賞したんですね、私。
八巻:あと「上京ものがたり」なんですけど、それは描きにくいでしょうから、こっちで。
西原:あんまり人のことはいえませんけどね。
八巻:でも西原さんは絵がうまくなりましたからね。
西原:うん、だいぶうまくなったよね(会場笑)
八巻:いや、笑うところじゃないですから、笑うところじゃ(笑)
西原:だいたいこんな感じ。
八巻:どうもありがとうございます(会場拍手)。(笑)すみません、本物か偽物かよくわかんなくなっちゃって(笑)
西原:偽物でも、大した違いはないですね。
■第20回手塚治虫文化賞受賞作「よつばと!」と「じみへん」を描く
八巻: 10年前は初めての画力対決ということで、手塚治虫文化賞にちなんで手塚治虫作品限定でお題を出したんですけど、今回また同じ作品というのもあれなので、手塚治虫文化賞受賞作品の中から選んでもらおうと思ったのですが、ほとんど読んでないですよね?
西原:なんかさっき、大賞の人通って、「誰だ誰だ誰だ」って(笑)
八巻:それでですね、第20回(今回)のマンガ大賞2作品ありますよね、「よつばと!」と「鼻紙写楽」。でも、鼻紙の方は描けないですよね……一ノ関先生のは……。
西原:まあ、似ても似つかないよね。
八巻:「よつばと!」は描けますよね?
西原:憎たらしいね、あのマンガ売れてね。
八巻:じゃあ、「よつばと!」と、町田くんは描けないですよね?「町田くんの世界」。描けない? すみません、描けないものばかりで。じゃあ、「じみへん」は描けますよね? じゃあ、「じみへん」と「よつばと!」。ひとつそこで描いて下さい。
西原:和田ラヂヲさんとかぶるんですけど。
八巻:そうかもしれませんね(苦笑)
しりあがり:あはははは。
八巻:何笑ってるんですか?(のぞきこむ)そう、それでいいんです、それでいいんです。これ、どっちがどっちですか?(会場爆笑)
西原:久しぶりに中崎さん見たら、もう高知の典型的な漁師のおっちゃんで。でもあの、ハローワークに登録したらぜいたくばっかり言って、仕事が一個もこないっていう(笑)
八巻:すごいなー。自ら連載をおやめになられて。
西原:ようは無職のおっちゃんなわけですよね。
しりあがり:(のぞきこんで)西原さんうまくなったね、本当に。もう30回くらいやってるんですよね?
八巻:画力対決? そうですね。いやもっとやったんじゃないですかね? (西原さんの作品をのぞきこんで)ほんとにすごい。どっちだかわかりますもんね、すぐに。
西原:うまくなってます。
八巻:うまくなってますね。
八巻:まずはうまくなった西原さんの絵です(※写真2参照)。うまいですよね?
会場:(拍手)
西原:レベルが低い! 落ちこぼれクラスと、進学校クラスって感じですね。
八巻:さて今度はしりあがりさんの、どちらかわかんないのはこちらですね(※写真3参照)。
会場:(爆笑)
八巻:まあ、あのね、両先生いらしてるんで。裏で怒ってるかもしれない。(裏に向かって)怒らないでくださいね~!
しりあがり:まあ、だいたいこんな感じですよね。
八巻:だいたいこんな感じですかね。あ、写真撮って構いませんから。
西原:それをツイッターで流そうが、2ちゃんで悪口を書こうが、大丈夫です。(写真を撮っている観客を眺めながら)多分、家帰って冷静になって消すと思いますよ(会場笑)
■しりあがり寿さんの絵に会場から歓声が…
八巻:さて、次にいきましょうか。20回の賞で、落ちた人たちがいるんですけど、その人たちのなかから……これは絶対描けますよね、「孤独のグルメ」。
し:ん?
八巻:え? 孤独のグルメです、あの、あれ……。
西原:谷口ジロー! あの絵の下手な。地味な。
八巻:大きい声では……(苦笑)
西原:あの人と、大友克洋さんぐらい女性を描くのが下手な人はいない。すんげーブサイクな女が出てくるんですよ。あの、谷口さんのルーブル美術館の絵見ました? ヤクルトタフマンみたいな女神が出てくる。ドレスのドの字も描けねーでやんの。見てください、ひどいですから。さりとて、あんな特徴のない絵ってまねしづらいんですよね。
しりあがり:そうですよね。そう、特徴がないとね。
八巻:散々そこまでいじったんだから、描けますよね?
西原:うん、真面目なだけが取りえみたいな感じの。
八巻:今日のお客さんは真面目な気がする。笑い方が遠慮してますもん(苦笑)
しりあがり:結局「孤独のグルメ」を描けばいいのね?(描き始める)
八巻:そうです、お願いします。