築33年になるパークは住みやすさには定評があるため、住み替えせず定住している人も多い。高齢化率は今後さらに上がると予想された。

「住民と同時に建物も高齢化していき、修繕含めいろいろ問題が起こってくるのは確実です。何か起こったときに、マンション内コミュニティーが崩壊していたら問題対応も難しい。そこで集会室を利用して、マンションで気になることを気軽に話し合える『ぱーくcafe』という場を作りました」(山本さん)。

 管理組合の総会など公式の場では発言しにくいが、住民が気楽に話し合えるこの場は大好評。ここから植栽、子育て、防災などいくつかの課題を共有し話し合う場が生まれ、住民の輪も広がった。課題が明らかになるとその解決策が求められる。

 先に挙げた阪神淡路大震災、そして2011年の東日本大震災でも分かるように、「ご近所」コミュニティーの崩壊が生死を分ける防災については特に関心が集まった。

 そこで「先人に学ぼう」と、理事たちで兵庫の「加古川グリーンパーク」を視察。DIG(災害図上訓練)や防災無線機、かかりつけ医や緊急連作先などを記した「あんしん情報登録カード」、災害用備蓄物などの取り組みをみせてもらい、自マンションの備えに活用した。

 遠方の事例を調べるうちに「近隣マンションの状況はどうなんだろう?」という思いが山本さんの中に生まれていた。築年数の違いから、おそらくは住民の中心世代が異なるだろう仮説(メイフェアは40-50代の働き盛り世代の比率が高く、タワーでは20-30代の子育て世代が半数以上)を立てていたが、PTA活動や民生委員を経験する中で仮説が正しい確信を持った。築年に比例して、住民の中心となる世代と各マンションが抱える問題点がパークの例を後追いすることは想像に難くない。ということは、パークで解決し取り組んできたノウハウは、メイフェアやタワーに応用できるはずである。そこで、久本町内会で活躍しているメイフェアの自治会(管理組合とは異なる住民主体の組織)青年部部長の金森岳司さん、タワー自治会会長の片平宏司さんに声をかけ、つながりを持ったのが2014年のことである。いわばマンション版「ご近所」の誕生だ。

「今回つきで改めて分かりましたが、PTAなど子供を軸にした活動で知り合いになっている子育て世代のママたちは、もうとっくにマンション内外でつながっています。そして情報網もすごい。イベントに必要な道具がないとか騒いでいると『あそこの施設にあるわよ』と、すぐに情報が集まります。今日も芋煮づくりに大勢参加してくれています」(山本さん)。

 餅つきの傍らで来場者に振る舞う芋煮を作る"芋煮ガールズ"は、地域住民も含む混成部隊なのである。まるでマンション連携を軸にして、久本地区全体が若返り活性化しているような印象を受けた。

 3つのマンションを合わせた世帯数約2300は久本地区全体の世帯数約5800世帯の4割を越えている。“ママ友”などすでにある人脈に加え、今回の取り組みが深化すれば、コミュニティーがより活性化し地区全体に大きなメリットがある。

 大規模マンションは、マンション内で生活を完結させることもできるひとつの街のような空間だ。しかしそれはマンションという孤立したカプセルの中で生きるのと同じ。多くの大規模マンションでは、自治会を設置するなどしてカプセル内のつながり強化には熱心である。しかしそれでも地域から孤立していることには変わりはない。これまでの大規模震災の被災地の例を見ればわかるように、孤立した集落は被災者救命や情報伝達の面で不利になりがちだ。まずはマンション間で。さらには周辺地域とつながることによって、マンションは「大都市に孤立した集落」から地域の一員となることができる。

 防災という観点からも有効なマンション間連携の試み。溝口の3つのマンションの連携はそんな新しい形を提示しているような予感がした。(島ライター:有川美紀子)