男なら一度は経験があるはずの「エロ本隠し」。多感な中学生時代、自宅の勉強部屋で苦労して手に入れたエロ本の隠し場所に頭を悩ませた人も多いだろう。俳優であり演出家・脚本家でもある河原雅彦氏は、若かりし日に果敢に挑み続けたエロ本隠しから得た感動についてこう話す。

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 筆者もご多分に漏れず、深夜、一人、エロ本の束を前に、自室に潜む穴場探しに全神経を尖らせた健気な少年であった。

 まずはカーペットをひっぺがし、続いてその下の畳もひっぺがしてそこに潜り込ませる作戦から冒険は始まった。LPレコードのジャケットの中、卒業証書の筒の中、はたまたクーラーの上という大胆不敵な死角を発見し、アホみたく胸ときめかせた記憶もある。ただし、鍵付きの机の引き出しに隠すという、あからさまに「俺、エロいの隠してます」的な場所はかたくなに避けた。プラモデルの箱の中、本棚に紛れ込ませるなどの安易なアイディアは、尾崎豊が「行儀よくまじめなんてクソくらえと思った」と歌うぐらいにクソくらえと思った。エロ本隠しの旅を続けるうちに、確固たるプライドが芽生えていったからだ。

 そして、紆余曲折を経て、筆者はついにひとつの答えに辿り着く。それは、「始終鞄に入れて持ち歩く」。そう、これも「隠し切る」という当初の目的からは、地球からイスカンダルぐらい遠く離れたバカ丸出しの結論ではあったが、なんというか"究極の勇気"と言えばそう言えなくもない。実際バレなかったし。本来姑息でみみっちいはずのエロ本隠しが、人生で初めて背負った自己責任と、そこから生じる誇りを教えてくれた。なんて素晴らしいんだ、エロ本隠し!

 ちなみに高校時代の弟は、本棚にエロ本をむき出しで並べていた。つか、学習机の上にロリータ関連の本が「幼児の裸体が好きですけど、なにか?」ぐらいの勢いで無造作に積まれていた。「こいつ、器でけーな」と真剣に思った。

※週刊朝日 2012年7月20日号