


この家では
いい雲古(うんこ)の出るものを
食べさせてくれます。
保証します。
いきなり「うんこ」の話題で恐縮だが、作家・開高健さんが遺した色紙からの引用なので、お許しいただきたい。釣り人として世界を旅し、食を探求した開高さんが「保証します」と太鼓判を押すのは、福井県越前町にある旅館「こばせ」の料理である。中でも看板メニューは、その名も「開高丼」だ。
開高丼とは、越前ガニの雌「セイコガニ」の身や、みそ、内子など8杯分を、炊きたてのコシヒカリ2合の上に盛った、迫力満点の丼である。こばせでは毎年、セイコの漁期である晩秋から初冬にかけて、この丼を提供している。
ちなみに、「越前ガニ」は地域ブランドであり、福井県内で水揚げされたズワイガニを指す。福井で雌はセイコと呼ばれる。同じ北陸でも、石川・富山では「コウバコ」と呼び方が異なる。
雄のカニは足を食べるが、
雌のほうは甲羅の中身を食べる。
それはさながら、海の宝石箱である。
と開高さんが表現した通り、セイコを散りばめた開高丼は色鮮やかで、豪華絢爛。口に運べば、ふっくらとした身と、コクのあるカニの内臓など、いろいろな味が一緒に味わえる。こばせの5代目主人、長谷裕司(ひろし)さんに素材へのこだわりを聞いた。
「使っているのは、越前漁港で水揚げされたセイコ。産卵間近のセイコは、腹の部分に張りがあり、栄養をためこんでいます。ずっしりとして、内子をたくさん抱えたものを開高丼のために選び、いけすに3日以上入れて泥を吐かせ、独自のゆで加減、塩加減で調理しています」
成熟したグラマラスな「セイコ」こそが、開高さんの好みだった。
「開高丼は、はやりの『メガ盛り』のように大きさだけが売りではありません。豪快で贅沢でありながら、味と質にも徹底的に、こだわっています。器は越前焼。『開高丼』と名乗る以上、いいかげんなものは、お出しできません」(裕司さん)。
30年前に開高さんが、「うまい!」と、かき込んだ丼の量と質を、忠実に再現しているのである。