戦争と平和を見つめる絵本 わたしの「やめて」(朝日新聞出版)Amazonで購入する
戦争と平和を見つめる絵本 わたしの「やめて」(朝日新聞出版)
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 安保法制に関するニュースが連日報じられる中、9月11日に発売された『戦争と平和を見つめる絵本 わたしの「やめて」』は絵本としては異例のスピードで刊行された。

 この絵本は、京都大学の学生と教員が結成した「自由と平和のための京大有志の会」が発表した「声明書」を、予備校講師の山岡信幸さんが小学生にもわかるように平易な言葉で書き直した「こども語訳」が元となっている。この文章に感銘を受けた絵本作家・塚本やすし氏と一緒に、なんとかこれを絵本として世に出すべく奔走したフリー編集者の藤代勇人氏が、どのようなやりとりをもって刊行に漕ぎつけたのか、その怒濤の40日間ドキュメントを書き記した。

*  *  *

1日目 7月30日(木)
深夜、友人でもある絵本作家の塚本やすしさんから一本のメール。「これ、絵本にしたい!」の下にリンク先。新聞報道で知っていた自由と平和を守る京大有志の会の声明書に「こども語訳」というものがあることを初めて知る。「とりあえず、明日会いましょうか」と返信。

2日目 7月31日(金)
午前10時、仕事場で「こども語訳」を大きな文字でプリント。何度か声に出して読んでみる。正午頃、メモ書き程度の企画書をまとめ、今朝起きた時に不意に顔が浮かんだ旧知の出版社の社長に送信。午後5時、押上のガストで塚本さんと話す。これを絵本にする以上は安保法案が参議院で可決される前に書店に並べなければならないこと。でもスケジュール的にはかなり厳しいこと。そのためたとえ進めても版元が見つからない可能性があることなどを確認。そのまま近所の飲み屋に移り全体の構成について話している最中に企画書を送った社長から返信メール。「詳しい話を聞きたい」と担当者を紹介される。

4日目 8月2日(日)
午後11時、塚本さんから構成案がメール便で届く。ラフ画ではなくもはや限りなく完成形に近い出来上がり。寝てないんだろうなと思いながらも、気になった箇所について修正依頼をする。

5日目 8月3日(月)
午後4時、塚本さんから修正された構成案が届く。

6日目 8月4日(火)
午後5時、出版社の一般書籍編集長と面会。いくつかリクエストがあったものの前向きな回答を得る。

7日目 8月5日(水)
午前、自由と平和のための京大有志の会の発起人のひとりで声明書の草案を書かれた藤原辰史さんに電話とメールで連絡。

12日目 8月10日(月)
午後4時、京都大学人文研で藤原さんと面会。持参した塚本さんの作品をお見せする。即答でご快諾いただく。藤原さんから「1日でも早い出版を」との言葉。そして「こども語訳」は埼玉県在住の予備校講師である山岡信幸さんが自主的に作成したものだということを教えていただく。帰宅後深夜、編集長に面談の報告と絵以外の原稿とタイトル案などをメールで送信。

13日目 8月11日(火)
夕方、編集長よりタイトルや本のサイズや仕様など決定の知らせ。まだ正式ではないものの9月7日見本、9日配本、11日全国発売のためにやれるべきことをやろうという思いを確認。

14日目 8月12日(水)
午前、本文とカバーや表紙など付き物の文字原稿を塚本さんにメールで送信。絵の最終仕上がりを14日(金)午後5時、デザインの締切を17日(月)午前10時と伝える。同時に京大の藤原さんにもスケジュールの予定とともに文字原稿のチェックをメールで依頼。

15日目 8月13日(木)
すでにメールでご挨拶をしていた山岡さんよりメールが届く。「多くの方に戦争反対の思いが届けば、と願います」との言葉。

16日目 8月14日(金)
午後6時、印刷所へ原画を入稿。

18日目 8月16日(日)
夕方、本文とカバーほかのデザインが塚本さんよりメールで届く。編集長に転送するとともにすぐに数か所の文字修正を戻す。その後何度かやり取りした後、深夜に校了。

19日目 8月17日(月)
午前、塚本さんよりデータ便にて出版社経由で印刷所へすべて入稿。

23日目 8月21日(金)
午後3時、仕事場に本紙ゲラが届く。塚本さんが来るのを待ちふたりで色校チェック。18時半、出版社に戻す。

26日目 8月24日(月)
午前9時、編集長より電話。姜尚中さんが推薦してくれるとの知らせ。急遽帯表のデザインの差し替えを塚本さんに依頼。2時間後印刷所へデータ送信。

28日目 8月26日(水)
午前11時、編集長より電話。差し替えた帯の文字(ふり仮名)の1箇所が欠けているとの指摘。一瞬目の前が真っ暗に。すぐに塚本さんに修正データを依頼。

40日目 9月7日(月)
午前11時、見本が出版社に届く。

こうして『戦争と平和を見つめる絵本 わたしの「やめて」』は11日(金)より書店に並ぶことになった。見本が完成した3日後の10日(木)夜、「こども語訳」を書かれた山岡さんと吉祥寺でお会いした。山岡さんの行きつけの時間が止まったかのような居酒屋の子上がりで向き合った私は、まだ山岡さんと直接会ったことのない京大の藤原さんから託されていた言葉を伝えた。「ありがとうございます」。(紙ヒコーキ舎・藤代勇人)