勤務先の旅館「西村屋ホテル招月庭」では食事の配ぜんなどを担当し、仕事を終えて帰宅した後は、ほぼ毎日、1、2時間、長い時は3時間ほど、トレーニングに励む。「企業チームの選手は1日中練習をしている。上に行くために、自分で工夫してやらないと」という思いからだ。
高校や大学で共に野球をした仲間は、既に数人プロ入りを果たしている。これまでがむしゃらに続けてきた野球だが、最近はやめることについて考えるようになった。「プロに行けないと思った時が、その時かもしれない」と表情を曇らせる。ネガティブな思いを打ち消すためにも、夜中までバットを振る。「めっちゃあせるけれど、こつこつやるしかない」。自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
多様な年齢、経験を持つ選手たちが一緒にプレーをするクラブチームをまとめる主将ならではの悩みもある。「自分の思いをどうやって伝えたらよいのか分からなくなる時もある。プロを目指すのはもちろんだが、もっとチームとして試合に勝つ喜びも味わいたい」と暗中模索する日々だ。
働き先や住むところがあらかじめ準備されているなど、クラブチームとしては恵まれた環境だが、毎年のように夢に区切りをつけて離れる選手もいる。選手の勤務先を世話する城崎温泉旅館協同組合の芹澤正志理事長は「可愛がっていた選手がやめていくのはつらい」と複雑な表情で話す。
クラブは13年に大阪府堺市から豊岡市に移転。昨年のドラフト会議では、河野大樹内野手がソフトバンクホークスの育成枠で指名され、移転後初のプロ入りを果たした。しかし、チームとしての成績は芳しくなく、最近は全国大会である都市対抗野球や全日本クラブ選手権に出場していない。設立当初と違い、独立リーグという受け皿もできた現在、豊岡に選手を集めるのが難しくなってきているのかもしれない。
プロという狭き門を目指す若者たち。現実は厳しく、結果を出せないまま去っていく選手もいる。しかし、一つのことに熱中し、全力を傾けた経験は決して無駄ではない。「プロに行かない選手も人間として育てたい」。野茂さんの情熱を受け、選手たちは今日も練習に励む。豊岡に来て3年目、これからのクラブに期待したい。
(ライター・南文枝)