ではどうすればいいのか。Aさんは「毅然とした態度で自分の目的を企業側に言外に伝えることが大切」だとした上でこう話す。
「失業保険の受給資格ができればすぐに辞める。辞めた後はぐちゃぐちゃ騒がないということを、経営者や上司との話し合いの席で話の端々ににおわせ、態度で示すのです。そうすると、企業側は折れてくる。場合によっては会社都合で早めに退職させてくれることもあります。退職後の失業保険給付の月数も延びるのでこちらにとっても好都合です」
とくに入社して最初の1カ月間が勝負だという。まずは、暇さえあればスマホを触っている姿を経営者や上司、同僚に見せつける。これで、「何かあればネットに書き込みをする者」との印象を周囲に植え付けるのだ。そして、仕事は“丁寧に”行う。決してサボっているのではないというアピールだ。極め付きは上司から叱責を受けた際、「タダ者ではないな」と思わせることだ。労働基準監督署への通報、弁護士への相談をにおわせるのだ。
「ブラックと評判が立つ喧嘩慣れしている企業ほど意外にも対応は早い。逆に喧嘩慣れしていない企業ほどこじれる傾向があります。でも、こじれれば、それだけ従業員側が有利になります。従業員は弱い立場です。自分の身を守るのは当然でしょう」(Aさん)
なるほど、ブラック企業ですら持て余す理由がよくわかる。長らく続いた円高不況も終焉を向かえ、日経平均株価も2万円台を超えた。就職戦線はかつてのバブル期を思わせる売り手市場だという。「失われた20年」の長らく続いた不況期に咲いた徒花が「ブラック企業」だとするならば、活況期を迎えた今、花開こうとしているのが「モンスター社員」という名のそれかもしれない。ここ数年来、キャリア教育が成熟したが、それ以前の「職へのモラル」教育が年齢問わず必要だ。どこか空恐ろしくなる。
(フリーランス・ライター 秋山謙一郎)