とはいえ、Aさんは、失業給付金をもらうまでの腰掛けと開き直り、仕事は徹底的して「時間をかけて丁寧」にやったという。それを1カ月続けた。やがて質はよくとも時間がかかる非効率的な勤務ぶりに、上司は業を煮やしAさんを厳しく叱責した。

「叱責された後、すぐに労働基準監督署に電話した。証拠などなくていい。その場ですればいい。そして労基署に『自分は仕事を一生懸命やっているのにこんな仕打ちを受けた』と話した。私はサボタージュしたのではなく、あくまでも『丁寧に仕事をした』だけ。それで厳しく叱責したとなるとこれは会社側にも問題ありでしょう。ブラックですよね?」(Aさん)

 こうしたAさんの態度に勤務先のメーカー側はすぐに反応した。まず、製造職から外し、日々、草むしりを命じた。誰もAさんに厳しく指導する者がいなくなったかわりに、親しく話しかける者もいなくなった。だが、それでも別に困ることもない。所詮は失業保険給付をもらうまでの腰掛けだ。何をいわれても平気なのだ。定時の出退勤で給与もきちんともらっている。文句はない。

「企業側に、『こいつ面倒くさいな』と思わせれば、後はもうこっちのものです。世間でブラックと評判の企業ほど、ややこしい者を抱える余裕はないので。そんな人間を刺激して、企業が抱える問題が表に出るリスクのほうが高いですから」

 過去、ブラック企業を含め、いくつかの企業を“使い捨て”にした経験のあるAさんは、決して、従業員が「一生、御社で勤めたい」という態度を取ってはならないという。

「住宅ローンがあるとか、生活が厳しいとか、『御社で働きたいです』という態度を出せば、それは企業側もつけ込みますよ」(Aさん)

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