耳を澄ませば、聞こえる言葉は中国語、広東語、英語、韓国語、タイ語、フランス語……。これが現在の東京都心部や大阪中心部で目の当たりにする光景だ。昨年、日本は約1300万人の訪日外国人客を受け入れた。観光庁は東京オリンピックが開催される2020年までに、2000万人の訪日客達成を目指している。そう、この日本の「多言語化」の波は留まることを知らないのだ。
そんななか、一人の日本人が8カ国語を操り、世界各国の人々を「笑い」の渦に巻き込んでいる。落語家の三遊亭竜楽氏(56)である。日本語、英語、フランス語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語、ドイツ語、中国語で落語ができ、これまで海外33都市で130回を超える公演を行っている。
一見、言語の非凡な才能がなければ成し遂げることができない技能だが、その神髄は意外なことに「大阪での体験」にあったという。竜楽氏はこう話す。
「大阪でのコミュニケーションは日本で最も国際化されたものだと思います。外国から見ると、日本人は表情や身ぶりが乏しく、ただほほ笑んでいるだけで何を考えているか分からないと言われている。しかし、大阪では感情をストレートにぶつける物言いが基本。大阪の落語は江戸落語と比べて演技が派手で、表現が過剰です。しかし国際的な目線でみれば、“普通”の表現なんです」
もともとは群馬県の出身で東の文化しか知らなかったが、落語の東西交流会への参加をきっかけに大阪との付き合いが始まる。ここでの落語経験が、外国語落語の「下地」が身についたという。
初の海外公演は2008年。知人から依頼を受け、イタリアで開催された日本文化を発信する展示会。それまで、留学生を相手に外国語落語を披露する機会はあったが、海外での試みは初めてだった。