ヒトの体のなかには100種類以上のホルモンがあります。それぞれ個性的で、十把一絡げでは語ることができません。健康面も精神面もコントロールしてしまうほど重要なホルモンを理解することで、今後の人生が変わることも……。慶應義塾大学医学部内科学教授の伊藤裕先生は、著書『なんでもホルモン――最強の体内物質が人生を変える』(朝日新書)で、特に重要な“十大ホルモン”を始め、その仲間たちを含む約50種類のホルモンを紹介。その中から「恋を長続きさせるホルモン」について紹介します。
* * *
花粉症の季節が到来しました。目がしょぼしょぼしたり、鼻が詰まったりして、鬱陶しく、情けなく、仕事も家事も勉強も進まない方も多いのではないでしょうか。
花粉症の鼻詰まりに用いる点鼻薬は、実は“ホルモン”に関係しています。“ホルモン”は、体に起こった変化を感じ取った細胞が、その情報を他の細胞に伝えてその細胞の働きを変えるための化学物質です。つまり“ホルモン”は、我々が自ら体内で作り出すことのできる、安全で最強の物質といえます。
点鼻薬は大きく三つに分けられます。まず一つ目は「抗ヒスタミン剤」。花粉症で鼻が詰まった感じがするのは、花粉によって刺激を受けた細胞が、血管を拡張させる作用のある「ヒスタミン」を分泌し、血管が充血するからです。「抗ヒスタミン剤」は、このヒスタミンというホルモン(の仲間)を抑えてくれる作用があります。即効性はありませんが、安全性が高く、子供でも使うことができます。また花粉の季節になる前に予防的に使用することで、花粉症を抑えることができるといいます。
二つ目の「血管収縮剤」は、ヒスタミンのせいで広がった血管を、「ノルアドレナリン」という血管を収縮してくれるホルモンの作用により元に戻してくれます。即効性があり、点鼻薬の中では、一番スッキリするといわれています。しかし、継続して使用すると、鼻の粘膜が肥厚して効き目が悪くなってしまうので、注意が必要です。
三つ目は、「ステロイドホルモン」。これはステロイドというホルモンそのもので、炎症をしっかりと抑える効果があります。即効性はありませんが、抗ヒスタミン剤より強力です。しかし、長期間使うと、鼻血が出たり、鼻のなかの傷が治りにくくなったりと、様々な副作用が出てくることも。期間限定で使うことをおすすめします。
このように花粉症の鼻づまりは、ほぼ全て「ホルモン」で治療しているといえます。しかし最近では、鼻詰まりだけでなく、恋の悩みも、対人関係の行き詰まりも、「ホルモン」の点鼻薬で解消されるかもしれないといわれ、大変な注目を集めています。
女性の出産時に大量に分泌され、子宮を収縮させることで陣痛を促す「オキシトシン」というホルモンがあります。これまでこのオキシトシンは、妊婦さん特有のホルモンだと思われてきましたが、女性だけでなく男性にもあり、一生涯分泌され続けることがわかりました。最近、このオキシトシンが脳の神経に働いて、“愛情”を深める作用があることがわかってきたのです。