集団的自衛権を巡るマスメディアの議論の中で、連立与党である公明党に対する手厳しい意見があった。行使容認を推し進める自民党の主張に、大幅に譲歩した公明党は、本来の党是である「平和」の看板を下ろしたのではないか、というものだ。
たとえば6月28日の毎日新聞社説は、以下のような論調だ。
<海外での武力行使へ歯止めをかけられない内容の閣議決定案の受け入れはこれまで培った「平和の党」の党是にもとる。9条の根幹維持よりも自民党との連立を優先した判断と言わざるを得ない>
こうした公明党に対する批判的な意見は、集団的自衛権行使容認に反対するメディアだけでなく、野党の政治家からも飛び交った。
元外務省主任分析官で書籍『創価学会と平和主義』(朝日新書)の著者・佐藤優氏は、同書の中でこうした公明党批判を一蹴している。
「はたして、公明党の『平和主義』は偽物なのか? 私の結論を先に言えば、『公明党の平和主義は本物である。それは創価学会の平和主義が本物だからだ』ということに尽きる」
かくいう佐藤氏は、創価学会員ではない。同書の中でも繰り返し言及しているが、彼はプロテスタントのキリスト教徒。大学1年生のクリスマス礼拝で洗礼を受けた19歳のときから、キリスト教信仰が揺らいだことは「一度もない」という。
そんな佐藤氏は、多くの日本人に対して「公明党や創価学会という言葉を聞いた瞬間に思考停止してしまう人が多い」と指摘する。たしかに公明党や創価学会に関する話となると、ある種の固定観念で見てしまう傾向は強い。佐藤氏は、公明党に対して固定観念を持っているならば、いったんそれを外し、異なる視座から見つめる必要があると語る。
「とくに今回の閣議決定について考える際、公明党に対して固定観念を持ったままでは、閣議決定で位置づけられた集団的自衛権の真の姿を見誤ってしまう」(同書より)
佐藤氏が言う「閣議決定で位置づけられた集団的自衛権の真の姿」とはなんだろうか。
それは、公明党がブレーキ役として閣議決定の内容を“骨抜き”にし、その閣議決定により、むしろ集団的自衛権による自衛隊の海外派兵は遠のいた、ということだ。「外交実務を経験した人間でなければ読み解きが難しい部分がいくつもある」という閣議決定の全文を繰り返し読んだ結果、佐藤氏はそう断言している。つまり、集団的自衛権を行使しようにも、閣議決定の内容では「縛り」があちらこちらにあるため、現実的にはできない、というのだ。
もちろんその「縛り」が本当に機能するかどうか、疑いを持つ人も多いだろう。同書では、その縛りがいかに有効か、また、どのようにして公明党が集団的自衛権を骨抜きにしたのかを詳しく解説している。さらに、同書では長年議論され続けている、公明党と創価学会の政教一致問題についても切り込んでいる。信仰の対象が違うとはいえ信仰心の篤い著者だからこそ紐解ける組織の論理と思想。“等身大の創価学会”を分析した最適な解説書と言えよう。