にこまるクッキー。クルミやベリーが入っている。売上の4割が生産者の収入になる。
にこまるクッキー。クルミやベリーが入っている。売上の4割が生産者の収入になる。
この記事の写真をすべて見る
浄土寺でクッキーを作る「菓子舎てまひま」のみなさん。集まるといつも笑いが絶えない。
浄土寺でクッキーを作る「菓子舎てまひま」のみなさん。集まるといつも笑いが絶えない。
結婚式でにこまるクッキーを配る藤井夫婦。もらった人からは「可愛くて美味しい」と好評だった。
結婚式でにこまるクッキーを配る藤井夫婦。もらった人からは「可愛くて美味しい」と好評だった。

 東日本大震災から3年が過ぎました。dot.では「東北の心意気―つながる笑顔―」と題して、被災地で活動する団体やお店などの情報を集めました。人、もの、こと――東北の魅力を改めてお伝えします。

*  *  *

 岩手県陸前高田市の中心部を見下ろす浄土寺に、女性たちの笑い声が響く。彼女たちが集まった目的は、クッキーを作ること。生地を丸めながら、仮設住宅での出来事やたわいない笑い話など、さまざまな会話を交わす。「バカ話に夢中になっちゃって、あんまりクッキーが作れなかった」なんてことも。

 彼女たちが作っているのは「にこまるクッキー」。レシピを考案したのは、料理家の枝元なほみさんだ。枝元さんが代表を務める一般社団法人チームむかごでは、東日本大震災の直後、被災地に日持ちする手作りの食べ物を届ける活動を行った。食糧物資が安定してきた2011年5月からは、被災地の人たちに作ってもらったクッキーを販売することで利益を還元するプロジェクトへと発展。現在は岩手、宮城、福島、東京(主に福島から避難された方が中心)にチームがあり、クッキーの生産を続けている。

 浄土寺も本堂が半壊するなど津波の被害を受けたが、現在は浄土宗の災害復興岩手事務所として活動している。2012年2月から浄土宗の支援を受け、震災で家族や家を失った人たちを中心にクッキー作りを始めた。住職の菅原瑞秋さんの妻・博子さんが代表となって、チームには「菓子舎てまひま」という名前をつけた。お彼岸や、幼稚園のクリスマス会のお菓子として、大量の注文を受けることもある。

 震災前に旅行で浄土寺を訪れたことがある愛知県に住む藤井理佳さんは、結婚式で配るお菓子として「にこまるクッキー」を注文した。「にこにこ顔のクッキーが可愛くて、もらった人がハッピーになれるから、結婚式のお見送りのときのお菓子にぴったりだと思った」という。

 理佳さんが嫁いだのは、三河湾に浮かぶ篠島。東北に知り合いがいない環境では震災のことを身近に感じてもらえないため、篠島の人たちにもこうしたプロジェクトを知って心に留めておいてほしいという思いがあった。シラス漁師をしている夫の賢さんも、東北の漁師への思いから賛成してくれた。

 チームむかごでは震災から3年が経過したからこそ、被災地から心が離れないよう「にこまるクッキー」の活動を長く続けていく考えだ。集まっておしゃべりをして笑いながらクッキーを作る中でも、時には「いつまで仮設にいられるんだろう」「これからどうなっていくんだろう」と不安が漏れることも。

 菅原住職は「復興は進んではいるけど、まだまだこれから。ぜひ被災地に来て、復興の様子を見てほしい。そして戻ったらこんな状況だよと話してほしい」と話す。