今年の1月10日に朝日新聞に掲載された、医療ライター今村美都氏の「老人ホームで看取ることの難しさ」というコラムが新年早々話題となった。内容は有料老人ホーム「アクラスタウン」でフィールド調査に取り組んでいる彼女が、現場での“老人たちの最期”を綴ったもの。静かにこの世を去る「平穏死」がある一方、病院で苦しみのうちに亡くなるケースや、意識不明のまま延命治療を受ける人もいるという。

 こうした現場から少なからず生まれるのは“尊厳死”を自ら望む声だ。最期を迎えた方の遺族のなかには「本当に老いに対して医療が必要なのか」という考えを持った人もいる。現在、尊厳死法案は国会でも議論されているが、高齢化が進む日本にとって今後はより重要なテーマとなることが予想される。

 書籍『穏やかな死に医療はいらない』の著者で医師の萬田緑平氏は、群馬大附属病院に外科医として従事。現在は「緩和ケア診療所・
いっぽ」で、患者が“自宅で最期まで幸せに生き抜くお手伝い”に尽くしているという。萬田氏は、意思確認ができない末期患者への延命治療や、多くの患者の最期を看取った経験から次のように語っている。

 「外科医時代、病院で枯れるように亡くなる患者さんなど、見たことがありませんでした。今あるエネルギーを一番効率よく使うのであれば、身体の訴えを信じ、枯れるように痩せていくのが一番です。もちろん、その先には必ず死があります。けれども自然の流れに乗れば実はもっとも長生きができるし、苦しくもありません」

 病院は通常“病気を治す場所”であり、多くの医師もそうした強い意識を持っている。だが、この治そうとする意識が患者にとって苦痛になってしまうケースもある。一般的に点滴は“食事がとれない場合の栄養剤”として広く認識されているが、水分過多で全身がむくんだり、呼吸が難しくなる場合もあるという。萬田氏自身、この苦しみから逃れるために余命1週間の患者が渾身の力を振り絞り、点滴を拒絶する現場を目の当たりにした。

 「生まれたときに“おめでとう”と言うのなら、亡くなるときにも“おめでとう”を言いたい。僕は、素敵な人生の締めくくりをハッピーエンドに演出してあげられる舞台係になりたいのです」と萬田氏。死の現場に従事する医師の「尊厳死」論なだけに重い言葉だ。