佐藤二朗(さとう・じろう)/1969年、愛知県生まれ。俳優、脚本家。ドラマ「勇者ヨシヒコ」シリーズの仏役や「幼獣マメシバ」シリーズで芝二郎役など個性的な役で人気を集める。原作・脚本・監督を務めた映画「はるヲうるひと」が2020年に全国公開予定
佐藤二朗(さとう・じろう)/1969年、愛知県生まれ。俳優、脚本家。ドラマ「勇者ヨシヒコ」シリーズの仏役や「幼獣マメシバ」シリーズで芝二郎役など個性的な役で人気を集める。原作・脚本・監督を務めた映画「はるヲうるひと」が2020年に全国公開予定
この記事の写真をすべて見る
※写真はイメージです(Getty Images)
※写真はイメージです(Getty Images)

 個性派俳優・佐藤二朗さんが日々の生活や仕事で感じているジローイズムをお届けします。

*  *  *

 先日放送した「99人の壁」で、絶叫マシーンに乗って、文字通り絶叫、いや、絶叫する余裕さえなく、ひたすら歯を食い縛ってる僕の姿を見た妻に、「君の顔、座布団みたい」と真顔で言われた佐藤二朗です。今まで妻は、僕の顔を、「弁当箱」「電話ボックス」「田んぼの畦道(あぜみち)」「便器」と様々に形容してきましたので、座布団はまだまだ格上(?)の方です。しかし妻は、なぜ便器と結婚したのでしょう。

 それはいいとして、便器俳優は、今はひたすら、ドラマ「浦安鉄筋家族」の撮影中です。朝も早くから「ぎょええええ!」「ずびいいいん!」「ニコオオオオ!」などと叫び、妻役の水野美紀からラリアットやらアイアンクローを喰らい、坂田利夫師匠の、もはや人知を超えた宇宙的ボケに翻弄され、娘役の岸井ゆきのに「うるせえエロ親父!」と言われ、息子役の本多力の股間に電気あんまをお見舞いし、逆に子役から電気あんまをお見舞いされ、いろんな人にハリセンをお見舞いし、いろんな人からハリセンをお見舞いされ、なんだかよく分かんないまま全身水浸しになり……まあ、なんというか、なんともいえない撮影が続いております。

 話は変わりますが、僕は芝居において、「ナチュラル」という言葉があまり好きではありません。もちろん作品の色合いによって、いわゆる「自然な演技」「ナチュラルな演技」が必要なことは多々あります。そして、それが出来ることは、俳優にとって重要で必要なスキルです。絶対に。

 若い俳優さんが「やっぱり芝居はナチュラルじゃなきゃね」と言っているのを何度か耳にします。また、一般の方々の「〇〇さんの芝居はナチュラルだからいいよね」というご意見を拝見したりします。

 もちろん、その意見に異論はないのですが、実はナチュラルな芝居は、並大抵の技術と感覚ではできません。なんとなーく小さい声で小さい動きで成り立つものではない。重要なのは、そこに「見るべきもの」があるかどうか。私見ですが、木村拓哉さんや浅野忠信さん、先達でいえば高倉健さんや渥美清さんのような(他にも数多いらっしゃると思う)、金を取る価値のあるナチュラルな芝居が出来る俳優たちには、尋常でないスーパーとてつもなく高いレベルの技術や感性と、鉄も溶かすような熱量が備わっていると思うのです。その、ちょっと容易に言葉にはできないくらいの凄味と、「ナチュラル」と軽く使われがちな印象が、あまりにかけ離れてるのが、僕がこの言葉を好きになれない理由だと思います。

次のページ
「リアル」も好きではない理由