少子高齢化で親の介護に頭を悩ませる人は多い。なかには、愛人と家を出ていった父が、高齢になって家族のもとに“返され”そうになり、その対応に苦悩する家もある。横浜市に住むマイコさん(50代)のケースを紹介したい。(名前はいずれも仮名)
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マイコさんの父・ヨシオさん(80代)は長年、母・ケイコさん(80代)と別居状態にあった。離婚こそしていないものの、別居中、ヨシオさんは千葉県に住む女性と暮らしていたのである。マイコさんら親族はこの女性のことを“愛人”と呼んでいた。
別居が始まる前から、ヨシオさんは家にほとんどいない父親だった。平日は家に帰らず、週末にふらっと現れては、夜ご飯を家族とともにする程度。マイコさんの妹の次女・アコさん(50代)は小学生のころ、「どうしてお父さんは家にいないの?」と母に聞いたことがある。
「母は『仕事が忙しくて、会社の寮に泊まっているのよ』と答えるだけでした。母は私たちの前で寂しそうな素振りは見せなかったんです。当時は子どもでしたから、本当のことはわかりませんでした」(アコさん)
当時(1980年代)、共働き世帯は珍しく、家事・育児は妻がやって当然という時代。マイコさんたちは父が家にいないことに疑問を感じながらも、深く考えることはなかった。だが、大人になるにつれ、父が家に現れない理由が、仕事だけではないことを理解し始める。
「誰に電話しているのか分かりませんが、母が受話器越しに『夫がそこにいるのはわかっているんですからね!』と怒っていたことがありました。そうしたことから、少しずつ“愛人”の存在に気付き始めたんです」(マイコさん)
ヨシオさんは「社交的だが短気」な人だった。酒を飲むと気が短くなり、ささいなことで怒っては、机をひっくり返したり、物を投げたりした。その後、仕事に行くかのようなきっちりとした服装に着替え、夜中に家を飛び出してそのまま帰ってこないこともあった。