もちろん、中学受験を乗り越えるには、一定の勉強量をこなすことは不可欠です。「ちゃくちゃくさん」もスピーディーな学習をまったくやっていないわけではありません。スピーディーな学習をしながらも、時に立ち止まって自分自身の勉強を見つめ直す。そういった子供が「ちゃくちゃくさん」といえます。

 では、アタフタさんからちゃくちゃくさんに変わるにはどうすればよいのでしょうか。

 具体例をあげると、「この問題はこうやって解いた」ということを再現する時間を持たせてあげることです。宿題をこなして終わりではなく、「どうやってこの問題を解いたか」を誰かに説明できるようにする。もちろん、すべての問題を説明すると時間がかかりますので、一日に2、3問程度でかまいません。そして、子供の説明を聞いてあげるのは、親が適任だと思います。

 また、子供をアタフタさんにするような教育を、親がやめることです。アタフタさんの親は、子供が点数をとったらほめるけど、悪い点だと怒る。一方で、ちゃくちゃくさんの家庭では、結果ではなく、「がんばっている姿」をほめる。たとえば、算数のテストで単純ミスがあっても「注意力が足りない」と責めるのではなく、計算の過程で途中まで正しかったら「ここまではちゃんとできていたね」と認めてあげる。そういった教育ができる家庭の子供は、積極的に学ぶ姿勢を持てるようになります。

 結局のところ、中学受験は家庭の“総合力”が結果に大きく影響します。両親が本を読まないのに、子供が読書家になることはほとんどありません。両親がふだんから家庭で勉強していれば、子供も勉強に前向きに取り組みます。そういった子供は、受験をしていても悲壮感がなく、心に余裕を持っているものです。

 中学生になれば、親が子供の勉強に関与できる機会は激減します。だからこそ、親子で中学受験を乗り切ることは、お互いにとって良い経験になります。そのなかで「スローな学習」を取り入れることができれば、子供にとって生涯にわたる糧になるはずです。中学受験のゴールは「志望校合格」だけではないのです。

(構成/AERA dot.編集部・西岡千史)