監督が絶対に外せないと思ったのは「三島と天皇」というテーマ。この討論会で三島は、安田講堂にたてこもった学生に対して、「天皇という言葉を一言彼等が言えば、私は喜んで一緒にとじこもったであろう」と発言した。

「とてもインパクトが強い言葉です。三島のその言葉は何を意味していたのか、それを全共闘の人たちはどう受け取ったのか。いまこの時代にこの発言をどう捉えればいいのかがずっとわからなくて、制作の過程はそれを探す旅でもありました」

 識者に座標を作ってもらい、当事者の意見を聞き、だんだんその像がクリアになってきたという。

 空疎な言葉が飛び交う現在から見ると、言葉と言葉がぶつかりあい熱を持った時代の記録として貴重だ。

◎「三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実」
伝説の討論会の記録映像に、平野啓一郎、内田樹、瀬戸内寂聴らの解説も入る。3月20日から全国公開

■もう1本おすすめDVD 「阿賀に生きる」

 58カ所もの発電所で埋め尽くされ、新潟水俣病の舞台ともなった阿賀野川。そこに監督とスタッフが住み込み、住民たちを3年間にわたって撮影したドキュメンタリー映画の名作「阿賀に生きる」。カメラは、山間の田んぼを守り続ける老夫婦、200隻以上の川舟を造ってきた舟大工、名人と呼ばれるつき職人といった人びとの暮らしを丁寧に追っていく。

「SELF AND OTHERS」(2001年)などの作品や、『ドキュメンタリー映画の地平』(01年)をはじめとする著書で優れたドキュメンタリー論者としても知られる映画監督・佐藤真の長編第1作(1992年)だ。豊島圭介監督は、学生時代に佐藤監督のドキュメンタリーの授業を受けたことがあるという。

「ドキュメンタリーとはあらかじめ結論を決めてそこに向かって作るものではないんだということを、徹底的に教えられました。『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』の制作過程も、現在につながる要素を探す道程だと思いつつ、その答えは最初から決めませんでした」

 07年に49歳で惜しまれながら亡くなった佐藤監督。その伝言は確実に継承されている。

◎「阿賀に生きる」
発売元:シグロ 販売元:紀伊國屋書店
価格3800円+税/DVD発売中

(編集部・小柳暁子)

AERA 2020年3月23日号