──2年ぶりに「バラード第一番」と「SEIMEI」を見た感想は?

 一言でいうと「これぞ正真正銘の結弦だ」という気持ちでした。もちろん昨季から使ってきたプログラムを嫌いだったわけではありませんが、あくまで「オマージュ」ものです。誰かへの敬意というのは、自己主張を押し込めることになりかねない。結弦が、彼自身について語り、彼の心の中をそのまま表現できるプログラムは、やはり見ていてワクワクしました。曲を戻した直後に楽しそうに滑っている様子を見て安心し、1週間もしたら威厳がにじみ出てくるようになり、感銘を受けました。

──ファンも、再演をとても楽しみにしていました。

 ソウルでの公式練習では、曲をかけずに結弦がポーズをとると、それがどの場面のどのポーズかがわかり、観客から拍手が起きました。見る者の想像力を広げさせ、目で見えない部分までも感じとらせる。傑作とはそういうものです。

(ライター・野口美恵)

※後編『「結弦には『僕のスケートは美しい』と伝え続けてほしい」ブライアン・オーサー、羽生選手への思い』へ続く

AERA 2020年3月23日号より抜粋