またまた人生を舐(な)めてしまったわたしは四年間、麻雀とバイトの明け暮れで、よめはんと同棲(どうせい)しているにもかかわらず就職活動などまるでせず、卒業間近の二月になって、彫刻科の教授が「スーパーの○○がひとり欲しいというてきた。誰ぞ行くか」というから、手を挙げた。
わたしはスーパー○○で建築意匠を担当したが、まるでおもしろくなかった。美術教師になったよめはんの夏休みや冬休みが羨(うらや)ましくてしかたない。よっしゃ、おれも教師になって、よめはんとインドへ行こ──。会社に内緒で母校の聴講生になり、不足していた教職課程の単位をとって教職免許を取得し、大阪府高校美術教諭の採用試験を受けたが、不合格。これではならじとがんばって、翌年、採用された。そしてその十年後に高校教師も辞めた。いまこうして食えているのは強運としかいいようがない。
前置きが長くなった。逃避だ──。昼、起きてパソコンを立ちあげようとしたら、映画試写会のハガキが眼にとまった。『燃えよ剣』。日付を見ると今日ではないか。小説誌の締切りが明日に迫っているが、わたしはただちに逃避行動に入り、よめはんの部屋に行って、「これからいっしょに映画に行きます」「あかんねん。美容院、予約してるから」「美容院は逃げません。映画は二時間後です」
『燃えよ剣』は司馬遼太郎の原作を過不足なく映像化していておもしろかった。帰りに食った串カツも美味かった。
※週刊朝日 2020年3月27日号