4月23日付の朝日新聞1面に「ハンガリー与党が昨年3月、『子育て中の母親には、2票を与える』という項目を憲法改正案に盛り込んだ」という内容の記事が載った。選挙権を持たない18歳未満の子供の代わりに母親が投票するのを認めようということらしい。この案は野党の反対もあって断念することとなった。投資助言会社「フジマキ・ジャパン」の代表を務める「伝説のディーラー」、藤巻健史氏はこの考えと似た過激な議論を、友人と交わしていたという。

*  *  *

 日本の年金や社会保障問題はハンガリーよりよほど深刻であろう。日本では歳出の4割が社会保障費であり、それが年間の国の赤字額にほぼ匹敵している。長年の赤字垂れ流しによって膨れ上がった959兆円(3月末時点)もの借金は、我々の世代で返せないのは明白だ。その結果、将来世代は税金を払うためだけに馬車馬のごとく働く必要が出てくる。そんな苦労をさせるなら子供を産まないと、少子化が進む可能性さえある。

 それでもいいのか?

 まだ生まれていない子供はもちろん、20歳未満の子供にも選挙権がない。それでは自分たちへの負債のつけ送りに対しての拒否権が発動できない、ということで友人と議論をしたのだ。「現代世代」と「将来世代」の利益がトレードオフの関係(一方を実現すると、もう一方は犠牲になること)にあるなら、両世代は平等に近い数の代表者を国会に送って意思決定をしなければならない。ハンガリー与党のように「母親に2票を与える」というアイデアを思いつかなかった我々の結論は、「現代世代の利益代表者を減らすしかない」というものになった。

 たとえば80歳以上の人の選挙権を制限するというものだ。未熟だからという理由で20歳未満の若者に選挙権を与えていないのと対をなす。

 もちろん、20歳未満でも国の将来をまじめに考える頭脳と能力を持った若者がいるが、どの若者がそうであるかを判断できない以上、一律に20歳未満に選挙権を与えていない。同様に、80歳を過ぎでも、自分より将来世代のことを考え、頭脳も我々よりはるかに明晰な方もいらっしゃるだろう。でも、どなたがそうであるかがわからない以上、一律に選挙権を制限する。

 こんな提案は過激すぎるし、政治的には受け入れられないことは十分に承知している。しかし、現代世代の社会保障はまさに若者の犠牲の上に成り立っていて、その犠牲があまりにも大きいのだから、彼らが拒否権を発動できる仕組みがぜひとも必要だと切に思うのだ。

※週刊朝日 2012年6月22日号

著者プロフィールを見る
藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

藤巻健史の記事一覧はこちら