最後の部族はイスラエルのパレスチナ・アラブ族で構成されています。イスラエルの人口の約20%を占める彼らは、今までの選挙では投票率が低い傾向にありました。そのためイスラエル議会に占めるアラブ政党の議席数は実際の人口比より少なかったのです。しかし、今回の選挙ではネタニヤフ首相の人種差別的発言に怒ったアラブ人有権者が多く投票し、「共同アラブ戦線」は15議席を獲得し、「リクード」党、「青と白」党に次いで、議会で3番目に大きな政党になりました。過去、アラブ政党はイスラエル政府に加わることは期待されていなかったのですが、今回はネタニヤフ首相に反対するガンツ氏の「青と白」党を支持しています。ガンツ氏も、イスラエル議会史上初めてアラブ政党との連立政権も視野に入れています。
今はまだどのような新しい連立政権が形成されるかを予測するのは時期尚早ですが、多くのイスラエル人にとって、今回の選挙結果は、政府を変えるチャンスであるだけでなく、イスラエルの民主主義の将来についての闘争と見なされています。もしネタニヤフ首相が右派連合を形成することに成功した場合、彼はパレスチナ人に対する厳しい立場を継続し、イスラエル社会のユダヤ色を強化する宗教法の整備を進めることが予測されます。
もしガンツ氏が次の政府を率いる場合、彼はパレスチナ人との和平交渉の再開、ユダヤ人入植地拡大の凍結、一般労働市場への超正統派市民の参加を奨励することが期待されています。彼の選挙キャンペーンでは、国家の管理方法、特にイスラエルの経済情勢に新たな風を吹き込み、民主的な性格を強化することを約束していました。現在いくつかの政党がガンツ氏支持を表明し、最初の組閣の機会を得ています。
○Nissim Otmazgin(ニシム・オトマズキン)/国立ヘブライ大学教授、同大東アジア学科学科長。トルーマン研究所所長。1996年、東洋言語学院(東京都)にて言語文化学を学ぶ。2000年エルサレム・ヘブライ大にて政治学および東アジア地域学を修了。07年京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科修了、博士号を取得。同年10月、アジア地域の社会文化に関する優秀な論文に送られる第6回井植記念「アジア太平洋研究賞」を受賞。12年エルサレム・ヘブライ大学学長賞を受賞。研究分野は「日本政治と外交関係」「アジアにおける日本の文化外交」など。京都をこよなく愛している。