カメラがデジタルとなって以来、ある意味、なんでも写るようになった。

「でも、これからは音楽でいうと音感のようなもの、写真でいえば色調とか質感をどれだけ見分けられるかということが大切です。その目を養うにはある程度の訓練は必要でしょう。例えば、ジャンルを問わず、いい絵や写真を見る。セバスチャン・サルガド(※1)のような自然のとらえ方もあるとかね。彼が被写体に向かっていく意思や情熱に刺激を受ける。そういうものを自分の中で生かす。画面をまねるんじゃなくてね」

 豊かな自然を持った山を単なる美しい風景としては見たくない。多彩な自然で構成された集合体として山を見たい。そのさまざまな自然を直視し、そこに焦点を絞って自分の写真を考えたい。それが最初の個展「穂高」の後でたどり着いた結論だった。

「豊かな自然とは何か。生物の多様性がまずあること。それが季節によって変わっていく。気象状態によっても変化していく。自然は一瞬たりとも固定されることがない。常に動き続けている。それが実感として感じられる。ただ、美しいというだけではなく、そんな意識を持って自然を見ていくことは風景写真にとって非常に大事なことです」

 水越さんの最新刊『日本アルプスのライチョウ』は、半世紀にわたり、ライチョウの生態を自らの目で見て学び、カメラに収めてきた記録である。

 昔の作品はコダクローム64で、最近のものは富士フイルムX-Pro2のCLASSIC CHROMEモードで撮影している。いわばフィルムとデジタルを融合した作品集であるが色調が統一され、違和感はほとんどない。

 水越さんが人生をかけて写し続けてきた日本アルプスは世界に類をみない豪雪地帯である。

「夏の美しいお花畑が、冬になるとそれが想像できないような景色になる。その落差というのは日本アルプスの大きな特徴です。そのなかで生きるライチョウの姿をしっかりと出したい」

 生命を拒絶するような厳冬期、稜線で出合ったライチョウの姿、生命力の強さには胸を打たれる。

 そのライチョウの命がいま、温暖化によって脅かされている。生息数を急速に減らし、2012年には環境省によって絶滅危惧1B類(近い将来、野生での絶滅の危険性が高い)に指定された。

 悲しい事実ではある。しかし、それをドキュメンタリーとして記録し続けるのも自然写真、特にカラー写真の役目なのであろう。

※1 セバスチャン・サルガドは報道写真家として知られるが、同様なコンセプトで自然風景にもレンズを向けている

(文・アサヒカメラ編集部/米倉昭仁)

※『アサヒカメラ』2020年4月号より抜粋。本誌では、水谷さんがフィルムや色に魅せられるようになったきっかけや、フィルムで撮影した圧倒的な風景写真の数々を8ページにわたって掲載している。