塾・予備校の風景が大きく変わりつつある。「AI」が先生になりタブレットで生徒一人一人に合わせた授業を行い、講師は専ら「コーチング」を行うという。AERA 2020年3月30日号から。
* * *
不思議な光景だった。
その日、城南予備校DUO自由が丘校の一室にいたのは、高校生3人と中学生2人。学年が違うが同じ授業を受けるらしい。冒頭、講師が二言三言話すと、すぐに生徒たちは手元のタブレットに集中し始めた。
女子高校生はタブレットにつないだイヤホンを耳につけ、ノートを取っている。見ているのは、数IIの高次方程式を解説する板書形式の動画だ。隣では男子高校生が図形の演習問題に取り組み、女子中学生は英語の「三人称単数現在形のs」を勉強中。講師は時折、生徒たちに声をかけるが、教えている様子はない。
大人数での一斉授業が当たり前だった予備校の風景を変えたのは、タブレットの中のAI教材「atama+」だ。2017年創業のアタマプラスが開発した通称「アタマ先生」。
授業終了後、高校2年生の女子生徒に感想を聞いてみた。
「去年の12月から数学で使ってますが、いままでの勉強とは全然違います」
これまでは解けない問題があっても、実際何を復習すればいいのか、自分ではよくわからなかった。だが、アタマ先生は理解ができていない分野の講義動画や練習問題を即座に出してくれる。「弱点をつぶしていく感じ。確実に解けるようになった実感がある」とうれしそうだ。
アタマプラスの稲田大輔CEOによれば、この教材は生徒一人一人のつまずきの原因をAIが特定。生徒個人の学習履歴、ミスの傾向、その日の集中度などまで加味して、専用のカリキュラムを自動作成する。そのパターンは10の3807乗以上もある。習得時間も短縮でき、例えば数I・数Aなら学習指導要領で規定されている学校の授業時間の5分の1だ。
AI導入の効果を実感した城南進学研究社は、従来の集団授業を今年3月末までに全てやめ、AI先生と人間の講師によるコーチングという新しい形態に全面移行すると決めた。