原発事故が起きた福島では塗炭の苦しみを味わった多くの住民が故郷を離れたままでいる。双葉町は一部地域の避難指示が解除となり、JR常磐線も全線開通したが、住民帰還は思うように進んでいない。原発回帰が鮮明な自民党政権のもと、原子力規制委員会が設定した新たな規制基準を16基がクリアしたが、地元の理解を得られず止まっているものもある。この事態は、放射性物質が拡散して県内を覆い、国土の一部が居住不能になったことに関し、津波対策を怠った東電幹部と電力業界が本来糾弾されるべきだという責任の明白性を示している。国民は事故を忘れていない。冒頭に紹介したラジオの災害特番は、被災者の声を届ける被災地支援番組として放送されている。「忘れない」。これがリスナーとの合言葉だ。
原子炉には現在もメルトダウンした核燃料が残り、処理済み汚染水はタンクにたまり続けている。この映画は忌まわしい事故のメルクマールとしてこれからも繰り返し観ることになるだろうが、今度は目を瞑(つぶ)って鑑賞しようと思う。なぜならこれまでの僕にとって、3.11とは本当に音のない世界だったのだから。
※週刊朝日 2020年4月3日号