指導した北島康介選手、萩野公介選手が、計五つの五輪金メダルを獲得している平井伯昌・競泳日本代表ヘッドコーチ。連載「金メダルへのコーチング」で選手を好成績へ導く、練習の裏側を明かす。第14回は「東京五輪の延期」について。
* * *
4月に予定されていた東京五輪代表選考会を兼ねた日本選手権に向けて、「全世界から注目されるので、内容も含めて頑張らなきゃいけない」と決意を述べた前回の締め切りから1週間で、事態が一変しました。
3月24日夜、東京五輪・パラリンピックの1年程度の延期が決まりました。
日本水泳連盟は25日、臨時常務理事会を開き、一度は日本選手権の実施を発表しましたが、小池都知事の緊急記者会見を受けて、中止を決めました。
世界中で新型コロナウイルスの感染者が急増している中、五輪の延期はやむをえないと思います。期間を短縮して無観客での実施を予定していた日本選手権は、強化責任者としては規模を縮小してでも実施したかったのですが、感染拡大を防ぐための中止は受け入れるほかありません。そしてもちろん参加予定だった選手・コーチの皆さん、競技会に携わるスタッフの方々の健康を最優先に考えれば実施は不可能でした。
刻一刻と変わる社会情勢の中、決定事項を変更する可能性が高いので、会議終了後メディアに発表するべきでないという意見を言いました。小池知事の会見を待って選考会の開催の有無を公表する余裕を持てなかったことは大きく反省すべきだと思っています。
今年2月までの大会を見ると、泳ぎを研ぎ澄まして選考会に合わせてきたトップクラスの選手の充実ぶりが目を引きました。そのエネルギーをなんとかして生かしたかった。五輪の延期が決まってからも、選手たちが4月に五輪代表を決めてじっくり強化できるように、感染のリスクを減らして五輪代表選考会を開く方策を探りました。
選考会が中止にはなりましたが、ドイツやスペインは参加人数を大幅に絞る案を決めていました。特にドイツは参加者600人を50人程度に絞るという極端なものでした。