『本当の医療崩壊はこれからやってくる!』の著者で、済生会栗橋病院(埼玉県久喜市)元院長補佐の本田宏さんは、こう警鐘を鳴らす。
「医師は一人何役もこなさなければならない。本人への負担が大きいのはもちろん、医療の質や安全の確保が難しくなるなど患者にも影響をおよぼします」
国も医師を増やそうとしているが、職業としての地位が弱まるといった反対意見もある。育成には最短でも8年はかかるため、コロナショックのために急増させることもできない。
「国は医療費が膨らむと危機感をあおって、医師や病院数を抑えてきました。政策の間違いを認めたくないでしょうが、日本の医療が弱っているのは事実です。今の現場の状況は兵力も補給も足りず、第2次大戦時のインパール作戦を見ているようです」(本田さん)
感染症対策が十分でないのは、民間病院の経営面の課題もある。
お金をかけて感染症患者の設備や病床を整えても、普段は使うことは少なく重荷となる。民間病院としては、高い診療報酬が見込める生活習慣病の患者を重視しがちだ。
「民間病院の経営を安定させるには、糖尿病や腎臓病など、長期間通ってくれる患者に来てもらうことが必要です。感染症患者の急増に備えて、普段は使わない設備や病床を確保しておくのは民間では難しい」(大手病院の院長)
バブル崩壊以降はムダ削減が叫ばれ、行政の“効率化”が推し進められた。医療関係も例外ではなく、感染症対策を担う保健所や地方衛生研究所の能力は弱められた。
保健所は新型コロナウイルス対策の要となっているが、削減されてきた。17年には全国で481カ所と、90年代前半からみるとほぼ半分まで減っている。94年に従来の保健所法が地域保健法に改められ、担当地域が広がり統廃合が進んだ。
新型コロナウイルスのPCR検査を担っている地方衛生研究所の職員数も、減らされてきた。
PCR検査を巡っては、能力不足が指摘されている。医師が必要だと判断して依頼したのに、保健所から断られるケースも目立つ。厚労省は3月13日に都道府県や指定市などに、保健所の体制を強化するように求めた。