このように感染症への準備不足は政府内でも問題になっていたが、お金がかかることもあって整備は進んでこなかった。
そもそも国は、感染症の患者が減ったことなどを理由に、指定医療機関の病床数を絞ってきた。病床数は18年で1882と約20年前(1999年)の半分強となっている。
医師も全体的に足りない。日本感染症学会によると、300床以上の約1500病院だけでも常勤の感染症専門医が約3千人は必要なのに、半分程度しか確保できていないという。同学会は専門医の育成を訴えてきたが、09年の新型インフルエンザの流行などもあったのに、国の対応は遅れ気味だ。
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、政府は急いで病床を増やそうとしている。
指定医療機関の対応病床だけでは足りないので一般病床も活用することなどで、2月末時点で5千床以上を確保できたとしている。現在の約2千床の倍以上だが、感染がさらに拡大すれば、患者があふれることになる。
政府は専門病棟の設置など、さらなる対策を取ろうとしているが、設備や人材をすぐに集めるのは難しい。都内の大病院の幹部はこう明かす。
「感染症患者を受け入れるには専門的な知識が必要で、病院内のルールや体制も整えなければならない。指定医療機関でないところでは通常2~3年はかかります」
新型コロナウイルスの感染者増で、医師や看護師には大きな負担がかかっている。日本の医療は質が高いとされているが、現場の余力は限られているのだ。
日本の医師数を人口1千人当たりでみると2.43人で先進国の中では少ない。経済協力開発機構(OECD)の加盟国のうちデータのある29カ国中26位にとどまる。医師の総数で見ても、加盟国の平均約44万人に対し約32万人だ。
人手不足は長時間勤務を招く。厚労省によると、勤務医の4割に相当する8万人が、過労死ラインの月平均80時間を超える時間外労働を強いられている。年間勤務日数も35%が300日以上で、1カ月当たり5日の休みを取るのがやっとだ。医師が過労死するケースも後を絶たない。