脱するにはどうすればいいか。これまでゴールは就労であり自立だといわれてきた。だが林さんは、まず大切なのは「居場所づくり」だと語る。

「自分のような人間は死んだほうがいいと思っている人に、就労支援だとか自立だと言っても、届かない。それより大切なのは、一人じゃないと思えて、安心できる『居場所』。そこから就労やボランティアなどにつながっていくのが理想です」

 居場所づくりのため、林さんたちは16年から全国の都市で「ひきこもりUX女子会」を開催している。これまでに100回近く開き、10代から60代まで延べ約3900人が参加した。こうした女子会は、今では自治体や民間の団体などが主体となって各地に広がっている。

 生協パルシステム連合会からの委託で暮らしの困りごと相談や居住支援などを行う一般社団法人「くらしサポート・ウィズ」もその一つ。18年6月に都内で「ひきこもり女子会@パルシステム」を開いたのを皮切りに、これまで5回開催。多い時で100人近い参加があった。次回は6月17日の予定だ。

 関西の美術系大学や専門学校で写真の勉強をし、上京し美大に入るも周囲になじめずひきこもってしまった都内の女性(30)も、「女子会」によってひきこもりから抜け出すことができた。

 29歳になった一昨年4月、あと1年で30歳になることにショックを受けた。この4年間、私は何をやっていたの、このままじゃダメになる……。翌5月、ネットで「女子会」が開催されるのを知って参加した。そこでは同じような悩みやつらさを抱える女性が多いことに驚いた。同じ境遇の女性と知り合ったこともあり、徐々に一人で動けるように。昨年から美術館でパートとして働きだした。

 まだひきこもりから完全には脱したと思わない。だけど最近、自分だからできることがあると思うようになった。自分を元気にしてくれた「居場所」を、今度は自分がつくることだ。女性は楽しそうに話す。

「そこでは、みんなで絵を描いて楽しんだりしたい。何より、自分が立ち上げることによって、そこが私の居場所になるかもしれません」

 急がなくてもいい。ひきこもっていた4年間が、意味があったと思える時がきっとくる。(編集部・野村昌二)

AERA 2020年4月6日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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