「『おなかが空いているときといっぱいのとき、どっちが幸せ?』という質問がありますが、圧倒的におなかが空いているときが幸せです(笑)」
初めて心を奪われた映画を聞くと、「小学校高学年のときに観た『マイ・フェア・レディ』かもしれない」という答えが。自宅に、ブロードウェーのオリジナル版「マイ・フェア・レディ」のLPがあり、映画の中でかかっている曲は、映画を観るはるか以前からすべて頭に入っていた。オープニング音楽を「♪ズンチャンチャンチャンチャチャ~」と歌い始め、オードリー・ヘプバーン演じる花売り娘のイライザが登場するシーンを、まるで今観てきたかのように生き生きと描写した。
「私が小学校から高校ぐらいまでは、テレビで洋画を放送することが多かったので、そこでウチの母が好きだった1950~60年代の映画をずいぶん観た記憶があります。誰が撮っているかに関心の高い人もいるけれど、私は役者さんに魅了されるほうだったから、監督は誰かなんて考えなかったですね。夢中になる映画にはだいたいパターンがあって、登場したときはそんなに精彩がない雰囲気だったのが、後半になってすごく美しくなったり、カッコよくなったりして、魅力的になっていく。どうもそういう映画が好きみたい(笑)」
「エゴイスト」の主要キャストも、最初はそれぞれに秘密を隠し持っているが、他人の新たな側面と出会うことによって、どんどん魅力的になっていく。それは俳優という仕事が「受注産業」であるからこそ、開花した魅力と言えるのかもしれない。(菊地陽子 構成/長沢明)
※週刊朝日 2023年2月17日号より抜粋