スポーツのけがで身近なものに、ひざの「前十字靱帯(ぜんじゅうじじんたい)断裂」や足首の「アキレス腱断裂」があります。足を使うスポーツ選手にとって、靱帯や腱の断裂は「致命傷」。切れたところをつなぐ手術をして早期復帰を目指すのが当たり前かと思いきや、手術をしない保存療法で治す場合もあるといいます。どんな場合に手術をして、どんな場合にしないのでしょうか? 一般の人にも参考になる治療法を選ぶ際のポイントについて、日本スポーツ医学財団理事長の松本秀男医師に教えてもらいます。
* * *
ひざや足はスポーツをする人が痛めやすい部位です。なかでも、前十字靱帯断裂やアキレス腱断裂は、とくに高頻度に起こるスポーツ外傷の一つといえるでしょう。
まず、「前十字靱帯断裂」について説明します。前十字靱帯はひざ関節にあり、後十字靱帯・内側側副靱帯・外側側副靱帯とともに、ひざを安定に保つために欠かせない四つの靱帯のうちのひとつです。太ももの大腿骨(だいたいこつ)とすねの脛骨(けいこつ)をつなぐ前十字靱帯は、全体重が加わるひざ関節の安定性を保つうえで重要な靱帯です。スポーツ活動中に捻ったり、着地のときに相手とぶつかって衝撃が加わったりすると前十字靱帯が断裂することがあります。
靱帯が断裂すると、まず出血・炎症による腫れと強い痛みが起こります。しかし、急性期を過ぎて腫れが治まると、痛みはかなり楽になります。前十字靱帯が切れても、筋肉によって関節の不安定さをある程度はカバーできるため、歩いたり軽く走ったりすることは可能です。運動量がさほど多くなければ、日常生活に支障がない人もいます。
前十字靱帯断裂で一番困るのは、足を捻ったり、ジャンプして着地したりするときにひざがガクッとなる、いわゆる「ひざ崩れ」が起こることです。スポーツなどの活動をするときは支障が大きいため、スポーツ選手の場合は九十数%以上が切れた靱帯を再建する手術をおこないます。