国難を乗り越えられるか否かは、リーダーの能力がカギを握る。AERA2020年4月27日号では、本誌連載でもおなじみの同志社大学大学院・浜矩子教授が、政治の役割やリーダーとして求められる姿勢などを語る。
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私が政治家に求める力は「共感力」です。緊急事態下、人々はどういう思いに駆られるのか。どんな不安を抱いているのか。感受性を持って正確に思考する。そして、その理解に基づいて、今、政治の役割は何か真摯に考える。総じて日本の政治家はこうした共感力に乏しい。
それが決定的に欠けているのが安倍首相と小池都知事です。結局、この2人は自分がどう見えるか。何をすれば自分たちの得点が上がるか。どうすれば減点を回避できるか。危機であっても、そこからしか物事を考えることができません。誠意を持って世のため人のために働こうという姿勢が全く感じられないのです。「世のため、人のため」ではなく「我がため、我がため」の政治です。
今、日本経済は瀕死の状態に向かっています。経済活動は人を幸せにするためのものです。それが人々を不幸に追い込んでいるのであれば、政治は全力でそれを是正する必要があります。今がどういう状況か。需要がなくなる。供給もなくなる。仕事がなくなる。収入がなくなる。放っておけば民間経済が消えてなくなるかもしれない。政治は今、失われつつあるその全てを補完しなければなりません。
民需が消えたなら、公需で埋める。民間で供給が停滞するなら、供給力を公的に補ってゆく。仕事がなくなり、収入も補償されないのであれば、政治がそれを提供する。やれることも、やれないことも、全て「やる」という姿勢が、危機中の危機には必要。大切なのは分け隔てなく、選択的ではなく、傷んでいるところに手を差し伸べること。ところが、その権限を託せるリーダーが、国政にも都政にも不在。これが日本の悲劇です。
求められるのは強いリーダーではなく、善きリーダー、賢いリーダー。「俺についてこい」ではなく「皆さんのために尽くします」というリーダーではないでしょうか。他方、非常事態だからリーダーに強い権限を与えようという声があります。極端な例が憲法を改正し緊急事態条項を定めようという動きです。しかし、私は強権発動しかない、という言い方にはくみしたくありません。それが、仮に善きリーダーだったとしても、です。
いったん、政治にそうしたお墨付きを与えたとしたら、取り返しがつかないことになる。けれども、非常事態にはある程度強い権限も必要なことも否めません。だからこそ、私たちに求められるのは「あくまでも期間限定で、あんたら許すよ」という自覚と態度です。もしかすると必要なのは、強いリーダーではなく、強い国民なのかもしれません。
(編集部・中原一歩)
※AERA 2020年4月27日号