しかし、一旅人として見るとその旅情はほかに変え難い魅力があった。とりわけ朱鞠内~手塩弥生間に展開する原生林やわずかに姿をのぞかせる朱鞠内湖の展望は秀逸で、冬期の名寄峠越えではうず高い雪壁の隙間を重い足取りで気動車が進んでいったのを思い出す。

 運転系統が朱鞠内でわかれていたこともあり、訪れるたびにこの駅や周囲の小さな町に足跡を記すこととなった。2面2線のホームとロッジふうの駅舎。はじめて降り立ったとき、「ずいぶんと広いな」と思った覚えがある。駅前を国道275号が線路に沿うように走り、駅舎が見える範囲に家屋が建ち並んでいた。郵便局があったのが印象に残っているものの、食堂や商店はどうだったか……。それにも増して印象深かったのは、人が歩いていなかったことだろうか。

 朱鞠内駅は、深名線のほかに名羽(めいう)線という路線が乗り入れる計画があった。名羽線は朱鞠内と日本海沿岸の羽幌(はぼろ)とを結ぶ計画で一部が着工されたものの1981年に工事が中断、1987年に白紙と化した幻の鉄道路線である。残念ながらその夢も深名線も姿を消し、羽幌で名羽線と接続するはずだった羽幌線もまた1987年に廃止されている。

 その後、朱鞠内駅は撤去されたものの、跡地が「朱鞠内コミュニティー公園」として整備されたほか、駅舎位置に三角屋根の深名線代替バス待合所が設えられたなど、往年の名残りをわずかに伝えている。また、路盤跡が各所に認められるほか、上幌加内~政和(せいわ)間に架かる第三雨竜川橋梁はその見事なトラス橋が大切に保存され、廃線探訪の名所ともなっている。(文・植村誠)

植村 誠(うえむら・まこと)/国内外を問わず、鉄道をはじめのりものを楽しむ旅をテーマに取材・執筆中。近年は東南アジアを重点的に散策している。主な著書に『ワンテーマ指さし会話韓国×鉄道』(情報センター出版局・共著)、『絶対この季節に乗りたい鉄道の旅』(東京書籍・共著)など。

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