熱狂的なファンで盛り上がる甲子園のスタンドの様子 (c)朝日新聞社
熱狂的なファンで盛り上がる甲子園のスタンドの様子 (c)朝日新聞社
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 阪神ファンは、「熱狂的」というベタな表現では言い尽くせないほど、チーム愛が強い。「観戦ではなく参戦」「趣味と言うより生活の一部」とも評される独特のスタイルでチームを応援する姿からは、「お祭り」「陽気」「情熱的」といったイメージも浮かんでくる。

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 2007年12月の北京五輪アジア予選の際に、完全アウェーをものともせず、地元・チャイニーズタイペイ打線をピシャリと抑えた上原浩治(巨人)が「阪神戦の甲子園が世界一のアウェーと思っていますから」と語ったように、本拠地・甲子園での応援パフォーマンスは、世界最強と言っても良いだろう。

 しかし、その一方で、チーム愛が高じるあまり、常軌を逸した行動もしばしば見られる。

 巨人のV9決定直後の甲子園での暴動(1973年)やカーネル・サンダース人形の道頓堀川投げ込み事件(85年)など、過去にも数多くの騒動があった。昨年7月にも、DeNAファンと口論になった阪神ファンが子供を投げつける事件が起き、今年も全国にコロナ禍が広がるなか、タニマチが選手たちを自宅に呼んで合コンを開催、集団感染を発生させる事態を招いたのは周知のとおりだ。

 これらの行動は社会的に許されるものではないが、あくまで一部のファンによる“暴走”の結果であり、全国で1千万人とも2千万人ともいわれる虎党の大多数も“残念な事件”と認識しているはずだ。にもかかわらず、一般的に「過激」「贔屓の引き倒し」等の全体像でとらえられがちなのも事実。

 だが、そんな先入観とは裏腹に、阪神ファンは良い面もたくさん持っている。ふだん痛烈なヤジを浴びせられている他球団の選手でも、その良さを認める者が少なくない。

 昨季、広島から巨人にFA移籍した丸佳浩は「『阪神ファンだけどお前は応援しているからな』って言われたりしました。意外と優しいんですね。ヤジもありますけど、ファンの人たちはそれ込みで野球を楽しんでいる。それにのみ込まれることはないですよ」と証言。守備に就いたときに、スタンドの阪神ファンから名前を呼ばれたのに反応して挨拶を返したことが好感を呼んだようだが、たとえ憎き敵チームの選手でも、対応いかんによっては受け入れる心の広さも、阪神ファンの特徴のひとつである。

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久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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阪神ファンの優しさ溢れるエピソード