正恩氏が健在だとすれば、やはり太陽節の参拝よりも重要な関心事があったということになる。辺氏は、新型の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験の準備段階に入ったのではないかと推測する。そのために、文川近隣の元山で滞在しているのでないかというのだ。

 SLBMは海中の潜水艦から発射されるため、事前に衛星などで発射の兆候をつかむのは難しく、実戦配備されれば日米韓にとって大きな脅威になる。昨年10月、北朝鮮はSLBM「北極星3」の発射実験に成功したと主張したが、米国の統合参謀本部の報道官は「海に設置された構造物から発射された可能性がある」と、否定的な見方を示している。

「北朝鮮はICBM(大陸間弾道ミサイル)や、開発中のSLBMまで、すべてのミサイルの配備をやり切ってからトランプ大統領と会談や交渉を進めたいと考えているはずです。トランプ大統領は11月に再選されるかどうかもわからないから、とにかく急いでいます。一方、米国側もそのことを警戒し、正恩氏の居場所を探る必要があります。CIA(米中央情報局)が過去の健康不安に便乗する形で、今回の『重体説』を流してあぶり出しを図ろうとしたのではないか」(辺氏)

 もっとも、祖父の日成氏も父親の正日氏も心筋梗塞(こうそく)で亡くなっており、正恩氏も心疾患のリスクがあるといわれている。肥満体型でヘビースモーカーだけに「健康不安の可能性も排除できない」(辺氏)とする。

 韓国側は、正恩氏の「重体」報道に対して、当初から冷静な見方を示していた。韓国青瓦台(大統領府)の報道官は「金委員長は現在、側近たちと地方に滞在していると把握している」「正常に活動しているように見られる」などと、記者団によどみなく語っている。

 だが、米国側はこの間に不可解な動きを見せた。

 デイリーNKや米CNNが報道した20日から21日にかけて、米空軍の偵察機RC-135W、E-8C、米海軍のP-3C哨戒機などが総出で朝鮮半島上空を飛行しているのだ。

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米国の思惑が見え隠れ