世界的な評価を得てもなお、既存の枠組みや常識と闘い続けている建築家・安藤忠雄氏。近年の代表作には「表参道ヒルズ」「副都心線・渋谷駅」などがあるが、プロボクサーから転じて、独学で建築家になったという異色の経歴の持ち主だ。安藤氏はボクサー時代をこう振り返る。
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 工業高校に進学したんですが、家にお金がないから稼ぎたい。近所にボクシングジムがありまして、そこに飛び込んだんです。4回戦の試合を見ながら「このくらいなら自分にもできるな」と思いました。何よりケンカしてお金がもらえるんですから、こんないいことはない。1カ月足らずの練習でプロテストを受けて合格しました。4回戦に出ると、1回4千円もらえたんです。当時給料が1万円の時代。まずまずの戦績で6回戦まで進んだんですが、しかしここで私はあきらめるということを学ぶんです。
 のちに世界チャンピオンになるファイティング原田さんがジムに練習に来たんですよ。それを見て衝撃を受けた。心肺能力も体力も全然レベルが違う。「これはあかん、違いすぎる」と。世界に出ていく才能というのはこういうものなんだ、と思い知らされました。で、高校が終わるころにボクシングをやめたんです。

※週刊朝日 2012年5月18日号

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