歯科医や歯科衛生士への感染リスクも懸念されている。3月30日、ドイツ・ベルリンの歯科では3Dプリンターで作ったフェイスシールドをつけ治療にあたっていた(gettyimages)
歯科医や歯科衛生士への感染リスクも懸念されている。3月30日、ドイツ・ベルリンの歯科では3Dプリンターで作ったフェイスシールドをつけ治療にあたっていた(gettyimages)
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 新型コロナウイルスの感染拡大抑止のため、「社会的距離」を取ること(ソーシャル・ディスタンシング)が励行されている。しかし、勤務中の社会的距離を0メートルにせざるを得ない人たちもいる。AERA 2020年5月4日-11日合併号から。

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 歯科医院で働く人たちも、職務上の感染の危険が指摘されている。厚生労働省は4月6日の事務連絡で歯科医院に対して「緊急性がないと考えられる治療については延期することなども考慮すること」と求めている。

 厚労省の担当者が言う。

「外国メディアが歯科医院で感染リスクが高いなどと指摘していますが、厚労省としてそのエビデンスを承知しているわけではありません。ただ、一般的に患者さんと非常に近い距離にあるのは間違いなく、注意を促したところです」

 こうした状況を踏まえて、診療を休んだり、スタッフの態勢を縮小したりする歯科医院もある。福岡県内のある歯科医院では患者が半減し、診療体制を計画的に縮小している。

 院長の男性(48)は「緊急事態宣言に協力するという目的のほか、スタッフの動揺を止める狙いもある」と話した。

「特に人材不足の歯科衛生士に離職されるのが怖い。4月に採用した3人の新人は、感染について十分な知識もないまま勤務して不安が高まることを避けるため、最初から休ませています」

 しかし、このように対応できる医院だけではない。都内の歯科衛生士の女性(34)の勤め先は、従来と同じ態勢で患者を受け入れている。スタッフ間には不安と不満がくすぶるが、経営者である男性院長の考えは違う。

「設備投資の借金と家賃があって休めません」

 女性は、普段から滅菌、消毒はしっかりしているという自負はある。だが、日に日に感染者が増える状況下での「0メートル」は耐えられない。減ってはいるが、歯石取りなど不急のメンテナンスに来る患者は今もいる。「テレワークで暇だから」という理由を聞いたときには、怒りも湧いた。

「歯石や着色を取る機械はエアロゾルが多く出るので、今はなるべく使わないようにしています。正直に言えば、今は患者さんの口の中を見るのも嫌です」

 女性は転職も考えているが、何カ月も先まで予約が入っているため、残った歯科衛生士たちの負担を考えると思い切れない。

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