国土交通省が高速道路の建設再開を次々と打ち出している。再開されるのは小泉政権下で凍結された「無駄な高速道路」の数々だ。この動きを国土交通省の暴走だとジャーナリスト・辛坊治郎氏は指摘する。
1987年のバブル真っただ中、国は1万4千キロの高速道路建設を打ち出した。その計画は人口もGDPも増加する前提で建てたもの。しかし、自動車の数自体が減少しだした現在では、その計画を見直そうと、経済効果の見込めない4千キロの高速道路は建設が凍結された。
昨年から今月まで凍結解除されたのは、3カ所。仙台市から青森県までの沿岸部を結ぶ三陸沿岸道路の全線開通、東京外郭環状道路・世田谷~練馬間、さらに十分な需要の見込めず「無駄な高速道路計画」の象徴とされた新名神高速道路未着工区間だ。
前田国交大臣は、建設再開の理由についてこう述べている。
「震災の教訓を踏まえ、多重性が必要なところは造っていく。名神高速道路が被災すれば東西の物流が止まる」
辛坊氏は「必要なのは既存の危険個所の改修」であり、この理屈に異を唱える。
「今すべき発想が『既存のインフラが壊れた時のために代替手段を造る』ことでいいのか? 橋げたが落下し、道路を津波が洗ったら高速走行中の車はどうなるのか? 真っ先にすべきことは、既存の危険箇所を改修することであって、代替手段を講じることではないはずだ」
さらに辛坊氏は続ける。
「『次の震災に備えるため』のスローガンの下、新規事業に天文学的費用が注ぎ込まれる一方で、今そこにある危険が放置される。道路会社がすべきことはまず何か? サルが考えても分かることが、なぜ国交省の役人には分からないのか?」
※週刊朝日 2012年5月18日号