こういったイスラム過激派や白人至上主義組織、もしくはそれぞれの支持者たちは、新型コロナウイルスの感染拡大に呼吸を合わせるかのように、「敵(イスラム過激派にとっては欧米やイスラエルなど、白人至上主義組織にとっては移民・難民など)に対して攻撃をせよ」、「勢力拡大のチャンスに利用せよ」などと呼び掛ける声明を発信し続けている。
事実、各国でその兆候が見られているようだ。冒頭に例として挙げたが、英国の国家対テロ当局は4月22日、イスラム国などのテロ組織が便乗し、病院など新型コロナウイルスが関連する施設を狙ったテロを実行する可能性があると警告した。また、米国土安全保障省は3月、白人至上主義組織が2月にユダヤ系の米国人や警察官を標的として新型コロナウイルスを拡散させるテロを計画していたと明らかにした。同組織は、新型コロナウイルスに感染したメンバーに対して、唾やウイルスを混入させたスプレーなどを使って、非白人にウイルスを巻き散らすよう促していたという。
幸いにも、現在までに新型コロナウイルスに関連する大きなテロ事件の発生は確認されていない。
だが、こういったテロ組織に参加するメンバーの多くは10代から30代の若者で、失業や経済格差、孤独感や社会的差別などが原因として背景にある。新型コロナウイルスによる経済的打撃は測り知れず、おそらく各国でこれまでにない数字を記録する可能性が高い。それによって、失業や低賃金に悩む若者の姿が増えることは想像に難くなく、不満や不信感、怒りを覚える若者がテロ組織の受け皿になるリスクは十分にある。
また、貧困や疫病が深刻な地域では、イスラム過激派が医療や食糧支援、慈悲活動に積極的に従事することも珍しくない。その狙いは支持拡大だが、今回も政府の新型コロナウイルス対策に住民の不満が高まるなか、イスラム過激派は“政治的隙”を突いて支持を拡げる可能性は十分ありうる。
ここで紹介したようなテロ組織は超過激で異端なイメージが強いが、実は加入したい者には非常に開放的である。新型コロナウイルスの感染拡大によって世界で溜まる若者の不満とその受け皿としてのテロ組織、これが今後の世界情勢にとって、最も恐ろしい脅威なのである。
<著者プロフィル>
和田大樹(わだ・だいじゅ)/1982年生まれ。オオコシセキュリティコンサルタンツアドバイザー。清和大学非常勤講師。岐阜女子大学特別研究員、日本安全保障・危機管理学会主任研究員も兼務。専門分野は国際テロリズム論、国際安全保障論、地政学的リスクなど。日本安全保障・危機管理学会奨励賞を受賞(2014年5月)。著書に『2020年生き残りの戦略 世界はこう動く!』(創成社)、『技術が変える戦争と平和』(共著、芙蓉書房)、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』(共著、同文館)など